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ロズタリア大陸2作目『その31』

『政治的な思惑の交錯』

宗教都市の一面も兼ね備えた大司教が同じく映像と音声道具で見解を正式に回答する。
「私は第四百四十四代目の大司教にして学術都市を管理、運用させて頂いている【エイブラハム=ニコラ】です。
フジハナ卿にひとつお尋ねしたい。
現在、抱き締められておられる女性ですが、本当にかつて逝去済みのタチアナ妃殿下であらせられますか?
もし、そうならば一旦、墓を暴いて蘇生なさった。という事ですよね?
安らかに眠っていた死者に対する最大の冒涜を説かせて頂きます」
速やかに検証機関を立ち上げ、真偽を確認。事実であった場合は『神殿全焼』している点と併せて、フジハナ卿の大公位剥奪の宣言を大司教の名において行う。死者蘇生は宗教的概念から決して許してはならない『蛮行』だと発表した。

工芸都市に続いて学術都市からも正式に【NO!】の意見を突きつけられてしまった。消沈気味に観念したのだった。
無事、アイリッシュ達は医療都市の統治者である当主及び剣先を向けてきた衛兵達の身柄を捕縛したのだった。

「母上……」
ほとんどの者が捕縛され、立ち去っていく。そんな中、一言も発することなく、虚ろな眼差しで魔法陣から一歩も動かないタチアナに向かって、シャールヴィが諦めがちにおずおずと手を差しのべ、声をかける。
「父同様、自分も至らない息子で申し訳ありませんでした」
変わらず無反応のままと思われた矢先……
かすかに唇を動かしてみせたのだった。
『こ……ろ、し……て』
『かえ……りた……い』
読唇術を読み取ったシャールヴィが改めて、母を抱き締めながら、自身の不甲斐なさを謝罪する。
「母上……!
今回の件、誠に申し訳ありませんでした!」
そうしてアーシュのほうを向いて、どうすれば良いのか?尋ねる。
「どうすれば苦痛を与える事なく、母の蘇生を止められる?」
真剣な面持ちでアーシュが優しくシャールヴィとタチアナを引き離し、今後の手順を穏やかな口調で説明し始める。
「まずは、魔術によって無理矢理、肉体に固定中のタチアナ妃の魂魄を引き離して女神アイラの許に送り還します。
その時、天空から白い光が降り注ぎ始めます。その光を辿って逝くことになりす。
いいですか、タチアナ様?」
こくり
小さく頷き、再びかすかに唇を動かす。
『あ……り、が……とう……』
「その後、遺体ですが……すみません、学術都市の検証部隊達に引き渡しますので、腐敗しないよう冷凍保存させて頂きます」
本当に墓を暴いて遺骨から『蘇生』したのか?
墓所を訪ね、調査する必要性などを伝える。
タチアナはまかせる意思を唇、動かしてほんの一滴、涙を流しこぼした。
息を飲んで、成り行きを見届けている各諸侯達にアーシュは改めて、魂魄を女神の許に送り届ける術を発動させる事を伝える。
「それでは、いまからタチアナ様の魂魄を本来あるべき場所、女神アイラの許に葬送する術の詠唱を行います」
シャールヴィに対して徐々に肉体を維持する力や意志がなくなっていく。優しく抱き締め続けて最終的には、床に寝かせた姿勢にして欲しいと頼む。
「分かった、すまないが母をよろしく頼む!」
アーシュは小さく頷き、優しく謳うように詠唱し始める。不思議なことに床に描かれた魔法陣が白く光輝きだし始めた。
説明通り、少しずつ母の肉体は力が抜けていっていた……。シャールヴィは母が急に倒れないようにそろりそろりと慎重に母の肉体を静かに床に寝そべらせる。
女神の祝福ガレス・ヴェルシング!!」
まばゆいほどの強い光が発せられる。
数呼吸ほどして、アーシュが静かにタチアナ妃の胸の鼓動や手首の脈を確認して、魂魄が無事に女神の許に再び帰還出来たのか?調べ始める。
きちんと心肺停止状態となっているのを見届け、タチアナの両手をそっと胸の前で組ませたのだった。

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