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ロズタリア大陸2作目『その17』

『高貴な血筋ゆえに』

隠された側面を知り、衝撃を受ける受講生達を尻目にアーシュが、ビシッ!と羽ペンを勢い良くシャールヴィに向ける。
「経緯はどうあれ、お前さんが勇者ウィルヘルムの末裔、ローゼンハイム王家の嫡男である事実は変わんねぇ!」
コンシュテール公国を統治している一族同様、特定の妓女としか夜遊びをしていない可能性を指摘する。
「レイフ達、大公家の連中はそんな事情からか?城下町の花街の経営者達と密約を交わしてる!」
大公家の男子が買うのは、口の固い信頼のおける店主が認めた女性限定!
子供が出来た!と喜び勇んで大公家に報告してきた新参の店主は【論外!】
住民達が知らない内に城外に流れている少し大きな川に必ず浮かぶ羽目になる。
そして、信頼のおける店以外で遊んだ刑罰を大公家一族総出でやらかした親族に対しても下している。故に年齢的に必要になった男子には、親戚がきちんと【遊んでよい店】を紹介しているのだった。

それを知らずに育ったシャールヴィは、どこか絶望的な表情で酷く落ち込んだ。
「なんていうか……俺が父同様、バカなのは当然だが……(相手の女性に対しても)可哀想な事をさせてしまったな」
知っていたら花街は決して行かなかった……
内心を悟ったアーシュが軽く後ろ頭をかく。
「お前さん、なにを勘違いしてるのか知らんが、たぶん子供は生きてるぞ?」
「へっ?」
きょとんとするシャールヴィに構わず、推測を述べる。
「さっきも言った通り、お前さんはどんなにド腐れても元王太子だ。
子供は臓器移植の材料にするのでなく、叔父である大公本人が引き取って密かに養育してる可能性のほうが遥かに高けぇ~と、あたしは思うぞ??」
シャールヴィ自身に王位を取り戻す意思はなくても、その嫡子を養育!
クラヴィス自身が何らかの失策などで失脚!
または勝機アリ!と判断したり、噂を嗅ぎ付けた他の貴族や商人など資産家が集まりだして、成人した男子を勝手に担ぎあげて一方的に恩を売る腹積もり。そんな政治的な思惑の可能性を指摘する。
「あぁ……なるほど。
だから、金貨数千億枚なのかもしれないのか……」
まんまとシェドの奴に騙されていた。理解したシャールヴィがわなわなと手を小さく震えさせる。
「つまり俺はそもそも、そんな天文学的すぎる金額に疑問を抱くべきだった訳だな」
コンシュテール公国城下町に潜入する時にシェドが言っていた言葉を思い出す。
『あのクソガキ……疑え!とは言っていた。
でも、少なくとも目の前の彼女は決してウソをついているようにみえない。
なにより仮説的に俺が騙されてる可能性を親切に教えてくれてる印象すら受ける……』
殴るべきは今まで散々、借金のカタと称して、色々コキ使い続けていたクソガキ!!
そこまで考えて、今後を打診してみる。
「なぁ……ひとつ、君に提案なんだが、今回の件終わった後、もし……もしも!お前達が俺を受け入れてくれたら!!の話になるが……
俺を用心棒として雇ってくれないか??」
殺人鬼としてご法度ならば、今回の事件が終わり次第、行方をくらまして大陸をぶらぶら旅をする考えを述べた。
頬杖ついてアーシュがあっさり快諾する。
「あたしゃ構わんよ。
むしろ願ったり叶ったりだ」
同席中の近衛達が彼女の反応に驚愕する。
「えっ!?本気ですか?アイリッシュさん!」
ひらひら羽ペンを振り、コンシュテール公国住民を護るのにうってつけ!だと説く。
「商業都市での実績や噂からこいつを怖がるのも無理はねぇ!
当然の反応かもしんねぇけど、よぉ~く考えてみてくれ?
一応、破邪の聖剣【女神の剣 ガレス・スィード】を扱える勇者の末裔であるのは間違いない!」
医療都市の次は工芸都市が狙われた時の可能性を指摘する。
「んで、もって現状、公国側だが仮に魔獣や冥府に封印した荒ぶる神と化した破壊神が復活した時の準備は万全といえるか?」
悪霊との交戦など【皆無!】
まして自分達は、初めての経験で教え広める目的で『派遣』されている。
苦々しく近衛の一人がか細く答える。
「無理……ですね」
「そういうこった」
アーシュが、医療都市後の賢者の出方を予測する。
「目的達成の為なら手段選らばねぇ奴のこった。
たぶん、今回の事件終わった後は何らかの形でうちらを巻き込んでくる可能性は非常に高けぇ~だろうな」
あるいは……顔を少し横向けながら全く別の可能性を指摘する。
「邪教集団の教祖でもあるクラヴィスの野郎が何らかの形で、うちらと交戦を始めるかもしんねぇな……」





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