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ロズタリア大陸2作目『その14』

『医療都市の神器』

運ばれてきた熱々の海老と白菜の辛み調味料の大皿や、肉まんなど数々の郷土料理を取り分けながら、アーシュが話を続ける。
「医療都市の始祖に女神アイラが二千年前の聖戦時に授けたのが【女神の鏡ガレス・スフィーゲル 】と呼ばれる、鏡に映った人物や物の真実の正体を明かす道具だ。
こいつは死んで尚、女神の所に逝けず彷徨い続けている魂魄、オバケに対して『あの世』『天国』ってお前達、人間が認識してる世界はこっちだ!と一筋の光を放って導く役目も担っている」
久しぶりの母方故郷の料理に舌鼓を打ちながらシャールヴィが尋ねる。
「万一、その【女神の鏡ガレス・スフィーゲル 】とやらが破壊、盗難など紛失していた場合はどうなる?」
「死んだ人間の魂魄は女神アイラの元に逝けず、最悪、冥府に引きずりこまれて【悪霊】となっている可能性が高い!
つまり、それは生きてる人間がまるで別人!みたいになっている。という実感や印象を抱くことになる」
にわかには信じがたい回答に、どのように対応すれば良いのか?シャールヴィが真剣な様子で尋ねる。
「万一、その……悪霊とやらに憑依されてるヤツと遭遇したらどうしたらいい??」
続けて近衛の一人が一般人との見分け方の教えも乞う。
「我々は民間人と交戦する意思はありません!
どのように対処すべきでしょうか?」
もぐもぐ……
アーシュが豚肉とキャベツを一緒に炒めた料理を食べながら淡々と指南する。
「そもそも公国だけでなく大陸全般、殺人はご法度だろ?
特に今回は医療都市だ、悪霊に憑依されてるから一般人を殺害した!!なんて理屈は絶対に通らねぇ」
現地の法律及び道徳概念に準じて行動すれば『問題ない!』
理解した近衛が正当防衛時のみ当て身などで反撃すれば良い!と得心する。
「なるほど!我々は万が一、前触れなく襲いかかってきた人だけを気絶させる程度に手加減すれば良い訳ですね?」
そこにシェドが軽く補足した。
「私達一行はあくまで、東の先端に建立された神殿の参拝を目的とした旅行客です。
そうすると、どのような態度で振る舞うべきか?自ずと分かるのでは??」
ポン!
合点した近衛が軽く手を打つ。
「なるほど!!」
こほん……
軽く咳払いして、シェドが参拝に向かう道中、恐らく経験するであろう光景や不可思議現象を食事中の全員に伝える。
「これはあくまで私の推測に過ぎませんが……たぶん神器である女神の鏡ガレス・スフィーゲル は邪教集団の信徒によって持ち去られ破壊されている!と思います。
的中している場合、参道と呼ばれる神殿までの道のりで、実際には人はいない!にも関わらず、誰かいるような気配を感じたり、声を聞く!
幻聴や幻覚などを体験することになると思います」
『やっぱりヘンテコな事態に巻き込まれるのか……』
呆れがちにシャールヴィが、その時は帯剣してる聖剣を振るえばいいと短絡的に答える。
「そこで俺の出番!という訳か……」
カコーン!!
アーシュが空になった茶碗を勢い良くシャールヴィに対して投げつける。突然の出来事に回避出来ず、茶碗が顔に直撃した。
「アホか!おのれは!!
あたしの話のどこを聞いてた!?」
歩きながら抜き身の剣を振り回す参拝客は居ない!!
若干、青筋を立ててアーシュが見当違いを正す。
「あぁ……言われてみれば、確かにそうだな」
仮に幻覚や幻聴の類いを経験しても、慌てず錯乱状態に陥らず、冷静に山頂を目指し登山する!
そういう段取りだと、ほんのり赤くなったおでこを撫で擦りながら理解したのだった。

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