見出し画像

ロズタリア大陸2作目『その28』

『他者の生命を対価に生き続ける意味』

元々、季節毎に軽い風邪を引きやすい体質だった事もあり、国王の婚約者と決まるまでは大公家の屋敷で琴を弾いたり、絵巻などで側仕えの女官達と少女時代を楽しく過ごしていた。

しかし、先代国王の娘の一人がコンシュテール公国の妃として嫁いだ事で自分の状況が一変してしまった。
皇太子妃となる女性は、順番ならば学術都市の次はコンシュテール公国の息女だった。政治関係が強くなりすぎる!という建国以来からの慣習によって、次の末裔一族。つまり医療都市の大公家息女である自分にお鉢が回ってきてしまった。
次代王妃としての教育が始まり、戸惑いながらも無理のないペースで習得はしていった。
当時、王国に嫁いだ後も父や兄の計らいでかなり過ごしやすい王宮生活だった。
しかし、くちさがない王国内の貴族や士官達が【いつまで医療都市のお姫様でいるつもりか?】など密かに悪口を流していた。
わたくしも寄り添う姿勢を見せるべきと思い、王国流儀の茶会を催し貴族達と接した。
無事に世継ぎを出産した後は、それなりに穏やかで順調な皇太子妃時代だったが、手本であり最大の理解者兼相談相手であった義母を、茶会の席にて当時の国王、王妃暗殺!という形で突然、失ってしまった。
自覚はなかったが、何をしても理解示さず悪しく申す民衆達の率直な意見も自分の寿命を削り続けていたのだろう。
酒に溺れていた夫の代わりに公妃侮辱の詫び行脚も失敗に終わった結果を受け、当主となったばかりの兄の強い薦めもあり実家に戻った。
「我が妹は責務果たさぬ無能なのだろう!?」
兄は見たことがないほど物凄い形相で士官達に向かって激怒していた。
かくしてローズテリア王国は工芸都市に続いて医療都市からも【国交断絶!】という形で信任を失ったのだった。

まだ八歳になったばかりの息子を王宮に残すのは偲びなかったが、実家に戻れた安心感が徐々に未練を失わせた。嫁ぐ以前同様、いや……晴れて当主となった兄上様はそれ以上にわたくしを溺愛してくださった。
当初は「気位だけが高い姫」だなんのと誹謗していた王国民や他国貴族から受けた精神的な屈辱を癒す為だと思い、家族愛として有り難く受け取っていた。

しかし……兄はいつまで経っても妃を娶らなかった。
世継ぎはどうするのか?
不思議に思い尋ねたのをキッカケに兄がわたくしに優しく自分の思いを明かしてくれた。
本当は嫁がせたくなかった。
医療都市は昔から兄妹間での婚姻例は珍しくない。その段取りで父と進めていた。と……
それ以降、兄はわたくしの寝室に出入りするようになった。

ローズテリア王国における国王と妃の離婚は死別のみ!と定められている。
いくら国交断絶中とはいえ、不義には相違ない。兄は無理強いこそしなかったが、わたくしにとって、どこか心理的な圧力となっていたのは【事実】だろう。
数年ほど男女関係を継続した後、ごく限られた者しか分からぬよう万全に整えられた状態で、ひっそりと一人の女児を産み、わたくしはこの世を去った。

自分の国葬をぼんやりと上空から眺めたあとは、天空から示される一筋の光に導かれ、亡き祖父母や先に逝った女官達と共に日差しが暖かく、朗らかに笑い過ごす日々を送っていた。

なのに……どうしてわたくしはいま、再び兄の隣にいるのだろうか??

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?