白昼夢

いつも通るこの道に小さな花が咲いていた。

あぁ、春だなぁと思った。
頬にあたる風もやわらかくて
ほんのりといい香りがして……。
ふと立ち止まり深呼吸してみた。

胸一杯に春の空気を吸い込んで……
(僕は目をつむっていた)
『ねぇ!』
ん?驚いて振り向くと
そこに髪の毛がボサボサの
女の子がいた。
『なにしてるの?』
「なにって……。深呼吸だけど?」
『ふぅ~ん?しんこきゅう?』
「そう。吸って~、吐いて~」
『すってぇ?はいてぇ?』
なんだ?変な子だなぁ。
「それじゃ!」
僕はその場を離れようと軽くお辞儀をし
くるっと方向転換した。
『あっ!踏まないでね』
「えっ?」
足元を見ると小さな花が……。
危うく踏んでしまうところだった。
『よかった……』
小さな声が聞こえたが
振り向くと誰もいない……。
「……」
しゃかんで小さな花をじっと見て……。
「もしかして?いや!まさかね?」
ふわふわと風に揺れてる小さな花……。
春の幻……。
夢でも見たのかな?
とりあえず小さな花が踏まれないように
少しだけ場所を移してみた。
風にのって
『ありがとう♪』
と聞こえた気がした。

《おしまい》

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