君の望んだ俺の幸せ

俺はいつからここにいるんだろう?
なにもないこの場所に。
君が望んだから俺は生まれた。
君の中に俺はいる。
俺は君だ。

君はいつも何処かへ行ってしまう。
悲しそうな寂しそうな顔をして。
俺はいつもどうしたらいいのかわからなくて。
俺になにが出来るのか?
君をどうしたら楽しませられるのか?
ずっと考えていた。

君は知らないだろう。
だって
俺にこんな風に考えることが
出来るなんて思ってもいないだろうから。

俺には君しかいない。
俺の世界には君しか……。

『ねぇ?翔』
君が呼ぶのは俺の名前だけ。
此処には君と俺しかいないから。
『なに?』
『ずっと一緒ね。私すごく幸せ♪』
君の言葉に俺は驚く。
だって
君はいつも俺を置いて消えてしまうから。
『……うん。俺も幸せだよ』
『二人だけで寂しくない?』
どうしたんだ?
今までそんなこと言わなかったのに。
『誰にも邪魔されないから。
 俺は幸せだよ。』
『良かった♪少し不安だったの』
ニコニコと笑顔で話す君。
俺の方が不安だ。
いつも不安でいっぱいだ。
君が此処に戻ってこなくなったら?
君が俺を置いて消えてしまったら?
『俺はずっと君と二人だけでいたい』
想いをそのまま言葉にした。
『!嬉しい!私も!』
君は笑顔で答えてくれるけど。
ほらそろそろ……。
『じゃあね。いってきます!』
『ん。いってらっしゃい』
ほんとは行って欲しくない。
置いていかないで……って言いたい。
でも……君を困らせたくない。
だから
『早く帰って来てね』
とだけしか言えない。
こんな俺の気持ち君にわかるのかな?

君のいない此処に
一人残されてる俺のこと
君はどう思ってるんだ?
君だけでいい。
君だけが俺のものになれば
他になにも望まない。

君の想いから生まれた俺。
俺はほんとに俺なのか?
君の求めているのは此処にいる
俺じゃないんじゃ?
お願いだ。もう一人にしないで。
君と二人だけでずっと……。
君とひとつになりたいんだ。
君は俺で。
俺は君で。

こんな風に願うのは
いけないことなんだろうか?
俺の存在は?
俺は居てもいいのか?
ぐるぐると負のループから
抜け出せずにいる。

伝えたい。
もう一人にしないでと。
ずっと一緒に此処にいて欲しいと。
そんな俺の我儘を
君は受け止めてくれるだろうか?

『おかえり♪』
君に抱きついた。
『たっ、ただいま』
『えへへ』
暖かい。君の温もり♪
『なに?どうしたの?』
『いつもより早く帰って来てくれたから
 嬉しくて♪』
言ってみようか。俺の願いを……。
聞き入れてくれるかな?
『あのさ……ずっと此処にいなよ』
『えっ?』
『もう行かなくていいよ』
『……』
やっぱり困らせてる?
でも……もう退けない!
『ずっと俺と一緒にいようよ』
『でも……娘が……』
娘……。俺よりも大事なのか?
『じゃあ、もう此処に来ないでいい』
『なっ!』
『帰って来なくていいよ』
拗ねても仕方ないのはわかってるけど
困らせたい訳じゃないけど……。
『此処が君の居るべき場所なんだよ?』
『なにを言ってるの?翔』
言ってはいけないのかもしれない……。
だけど……
『君はいつもどこに行くの?
 辛そうな顔して……』
『それは……』
やっぱりこれは俺の我儘なのか?
『此処に居れば笑っていられるのに』
それでも引き留めたい。
俺だけの君でいて欲しい。
『もうどこにも行かないで!
 俺と一緒に此処で生きていこう!』
俺の我儘を聞いて……。大好きだから。
『お願いだからもう俺を一人にしないで』
壊さないようにとても大切に
君を抱き寄せる。
やわらくて暖かくて……。
ほんとは力一杯抱き締めたいけど
君が壊れてしまいそうだから……
そっと……。

君はなにも言わない……。
俺の腕の中で黙ったまま。
でも幸せそうに笑ってくれてる。
もう何処かへ行くことはないんだね。
俺を選んでくれた。
俺といることを望んでくれた。

俺はほんとに幸せだ。
君と離れずに済んだから。
君を俺だけのものに出来たから。
ずっと君と二人だけでいられるから。

知らない(娘と呼んでた)誰かを
不幸にしたとしても……。

《おしまい》

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