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禁煙の喫茶店の話

最近、僕は知らない町の知らない喫茶店に入った。そこは名古屋によくあるタイプの喫茶店であり家族経営という趣きであった。

その店名は喫茶店山田(仮)。薄暗い感じの店であった。

入り口の横に禁煙というシールが貼ってあった。その時、僕は思った。喫茶店なのに禁煙なんだ、と。

そこには矛盾があるのではないか? と。清純派AV女優みたいな、そんな匂いがかすかにした。

まあ、よかろう。僕は気を取り直し店内に歩を進めた。そこには70前後のハゲたお爺さんがいた。

彼は読売新聞を読みながらカウンターの椅子に座ってタバコを吸っていた。おいおい、禁煙じゃないんかい?

僕は不安を覚えながら席に着く。席にも禁煙とシールがあった。おいおい、まず隗より始めよ、と言うではないか? 

でも、そもそも論として僕はタバコを吸わないので、コーヒーとサンドイッチのセットを頼んだ。昼頃だったのだ。

お爺さんは「OK」とフランクに良いカウンターでサンドイッチを作ってくれた。彼はタバコを吸いながら作っている。そして手を洗っていない。OK、僕は気にしない。そしてグチャグチャしたサンドイッチと汚れたカップに入ったコーヒーが運ばれたきた。OK、僕は気にしない。

しかし、コーヒーとサンドイッチは不思議と美味しかった。お爺さんの出汁
が効いていたのかもしれない。

僕は店の本棚から少年マガジンを取り出しグラビアアイドルの胸を見ていた。おっぱいには夢がある。ドリーム。

その時だった、常連であろうお客さんたちがどっと入ってきた。「親父! 唐揚げ定食な!」「こっちはスパゲッティ!」

にわかに店内に活気が沸いた。

常連のオジサンたちを見ると、彼はら胸のポケットからタバコを取り出し、タバコを吸い出した。

よく見るとテーブルの上にはコカコーラとプリントされたオフホワイトの灰皿が置かれていた。

なんなんだ、この店は。僕は、またグラビアアイドルの胸に目を戻した。おっぱいには夢がある。ドリーム。

いや、この喫茶店自体がドリームなのかもしれない。僕は、そう感じた。


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