BCGカーボンニュートラル実践経営
紹介する書籍
BCGカーボンニュートラル実践経営(ボストンコンサルティンググループ著)
書いてある内容
第1章 なぜ今、「カーボンニュートラル経営」なのか
1-1 カーボンニュートラルとは何か
1-2 なぜ今、カーボンニュートラルが必要とされているのか
1-3 どのような枠組みで推進しているのか
1-4 カーボンニュートラルは世界全体で実現可能なのか
1-5 各国はカーボンニュートラルを本当に推進するのか
1-6 カーボンニュートラルは、日本にとって実現可能なのか
1-7 日本は、カーボンニュートラルにどう対峙すべきか
第2章 「カーボンニュートラル経営」とは
2-1 企業は全体として何を行う必要があるか
2-2 ステップ1 準備をする
2-3 ステップ2 戦略を定める
2-4 ステップ3 着実に推進し、成果を示す
2-5 第2章のまとめ
第3章 カーボンニュートラル経営の要諦
3-1 カーボンニュートラル達成を難しくする3つの特性
3-2 カーボンニュートラル推進に向けた7つの要諦
カーボンニュートラルとは何か
大気中への人為的なCO2排出について、排出と回収・吸収のバランスを取り、実質的にゼロにすること。
人為的?実質的にゼロ?
下記の図のように大気に炭素を出し入れするルートには「海洋」「人間活動」「土壌森林」があり、人為的でない排出は人為的な排出と比べものにならないくらい大量である。ただし「海洋」も「土壌森林」も排出量以上の量を吸収しており、実質的には「吸収源」として機能している。一方「人間活動」においては「海洋」にも「土壌森林」にも吸収しきれず、排出量の半分が大気中に残留する結果となっている。
人為的な排出の内訳
2000年から2010年の10年間で7ギガトン増加。2010年の排出の内訳としては「発電・熱生産」の間接排出が25%、「産業・輸送・建設」などで50%、「農林業その他の土地利用」で24%となっている。ちなみに「農林業その他の・・・」が意外と多いですが、その半分は森林減少によるもの、残りは農業に伴うメタン(家畜のゲップ)や肥料などの排出とのことです。
カーボンニュートラルを実現する方法、以下の三つしかない。
GHGの人為的な排出を減少させる
人為的に新たにGHGを回収・吸収し、長期にわたり固定させる(CCS、二酸化炭素貯留技術)
GHGの自然吸収を増加させ、長期にわたり固定させる(植林や海藻の養殖など)
カーボンニュートラルがなぜ必要か
過去、気候変動により、気温が上昇してきた
人為的なGHG排出が、過去の気候変動の原因となってきた
人為的なGHG排出は今後もさらなる気候変動を引き起こすだろう
過去の気候変動は異常気象を引き起こしてきた
今後のさらなる気候変動は一層深刻な異常気象を引き起こすだろう
深刻化した異常気象は私たちの経済や社会に多大なダメージを与えるだろう
書籍では「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」の「AR(評価報告書)」の記述等から、この裏付け(ロジック)が解説されてますので興味のある方は書籍や上記の報告書に手を伸ばしてみてください。
企業は何を行う必要があるのか
具体的なアクションは「準備をする」「戦略を定める」「着実に推進し、成果を示す」という3つのステップで進めます。そのなかで、社会・企業がこれまで経験したことのない不確実性や多様なステークホルダーへの対応、長い時間軸のなかでの適切な進捗管理を行う必要があり、これがこのテーマを難しくしています。この難しさを踏まえたうえで、3つのステップ、より具体的には下図の10の取り組み一つひとつを、着実に進めていくことが求められます。
ステップ1 準備する
①全社の意識を統一する
経営陣だけでなく、部門間、地域間を超えた全社員の意識統一が求められる。経営陣が強いコミットメントを示すことはもちろん、イベントやワークショップなどを行い、会社全体で取り組みの必要性の浸透を図る。
②自社の排出を把握する
自社外も含めたサプライチェーン全体での排出量把握の重要性が高まっているが、精微な可視化は難しい。そのため、ラフな推計であってもなるべく早期に排出量の実態把握に着手し、徐々に精度を上げていくことが必要である。
③外部環境を理解する
多様なステークホルダーの動向が関係する中、自社の業界や事業内容に特に影響を及ぼす環境変化を特定し、中長期の見通しも含めて、定期的にフォローすることが重要である。さらに、自社にとって影響が大きい変化については自ら複数の未来シナリオを策定するべきである。
④自社にとってのチャンスとリスクを洗い出す
TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言の枠組みも活用し、自社にとっての具体的なチャンスとリスクに落とし込む。リスクについては自然災害などの「物理的リスク」だけでなく、規制や市場、技術、ステークホルダーの変化によって自社が受ける影響などの「移行リスク」も重要である。
ステップ2 戦略を定める
⑤自社の大方針を設定する
何年に何%という目標数値からではなく、まずは自社のありたい姿を明らかにする。その際は排出量削減などの外部からの圧力による守りの観点だけではなく、新規市場の獲得などカーボンニュートラル社会への変化をどう生かすかという攻めの観点を盛り込む。数値は大事だが、あくまでありたい姿を定量化したものと位置付ける。
⑥3つの切り口で取り組みを策定する
「要件を充たす」「競争優位性を構築する」「新規事業機会を創出する」という3ステップで考える。「要件」については(1)マテリアルフロー、(2)エネルギーフロー、(3)事業ポートフォリオの3つの見直しを考える。「競争優位性」については(1)提供しているサービスや商品自体の脱炭素化、(2)上流下流への染み出し、(3)バリューチェーンの構築、(4)消費者の行動変容を促しつつ、競争優位性を確保する。「新規事業」は既存のアセットにとらわれず、広い事業企画を模索する。
⑦実行に向けて社内の仕組みを見直す
「事業プロセス」「リソース」「インフラ・体制」の3つのレイヤーで社内の体制を見直す。「事業プロセス」では(1)サプライチェーンの見直し、(2)社外プレイヤーとのエコシステムの構築、「リソース」では(3)脱炭素関連資源の確保、(4)人・カネの再配分、「インフラ」では(5)従来の収益性に脱炭素の要素を加えた新しいモノサシの創出、(6)推進体制の整備である。
ステップ3 着実に推進し、成果を示す
⑧自社の取り組みについて徹底的にPDCAを回す
成果が出るため時間軸の長い取り組みになるため、社内の緩みが出ないように進捗をしっかり計れるPDCAを折り込んだプロジェクトマネジメントを行う。通常のプロジェクト以上に「強いPMO」「トップの関与」「定量的な目標設定」「短サイクル」「攻めの施策の重点チェック」が必要である。
⑨社会全体の変革に積極的に関与する
社会の一員としての貢献という意味合いに加えて、自社にとって有利なかたちでルールが形成されるよう、早い段階から積極的に社会変革に参画する。カーボンニュートラルは政府だけでなく、民間主導で行われることも少なくなく、そのために国際的な枠組みに参加したり、仲間を募り、自ら動きを作ることも重要である。
⑩自社ならではのカーボンニュートラル戦略ストーリーを発信する
まずは上記のTCFDの提言など、国際的に認められている枠組みに沿った情報開示に対応するべきだが、次のレベルとして、外部のステークホルダーに成果を正しく理解、評価してもらうために、単に数字やファクトの羅列ではなく、自らのパーパスや大方針に沿って、どういうインパクトを出しているのかをストーリーとして発信する。応用編としては、各評価機関の癖も把握し、相手に合わせた戦略的開示をすることも考えられる。
カーボンニュートラル経営が難しい理由
その1 影響範囲の広さと複雑さ
企業経営においてステークホルダーの動向は重要なポイントであるが、カーボンニュートラルへの取り組みはより幅広いステークホルダーの動向に影響を受ける。自社が属する業界以外の影響や社会全体のカーボンニュートラルの進展度合いなど。また規制や制度も先の見通し、方向性が自社に大きく影響する。
その2 不透明さ
大きな流れとしてのカーボンニュートラルへの取り組みは変わらないとしても、世界全体でのコミットメント、その中でも米中の対応状況、また経済の発展を優先したい新興国の意向など、想定しているシナリオが容易に変わりうること。また一定のプレミアム価格を支払っても低炭素、脱炭素製品を購入するという行動変容に至っている人はまだ限られており、どの程度のスピードで増えていくのかも未知数である。
その3 時間軸の長さ
企業経営はアジャイル経営が求められるようにサイクルが短くなっているが、カーボンニュートラルへの取り組みは結果が確認されるまで10年単位の時間を必要とする。またそのための企業の取り組みも意思決定自体は短期間でできたとしても、その取り組み自体は数年単位の時間が必要である。結果が出るのは先だが、意思決定は速やかにしないといけない。
カーボンニュートラル推進に向けた要諦
パーパスに意識的にカーボンニュートラルの要素を織り込む
大胆な目標を設定する
経営トップが圧倒的なコミットを示す
「何をつくるか」よりも「どうつくるか」を強く意識する
カーボンニュートラル事業を切り出し、「際立たせる」ことも考える
カーボンニュートラル事業は他社と組んだ「団体戦」で戦うことを考える
カーボンニュートラルでない事業は徹底的にキャッシュカウ化し、カーボンニュートラル競争を勝ち抜くファンドを作る
参考資料
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