【小説】僕の翳りゆく部屋の喝采

最初は出来心だった。
質問投稿サイトに『何か暗い曲はありませんか?』とだけ書き投稿した。
返事はすぐに来た。
『ヘイベイビー。翳りゆく部屋って曲を知っているかい?』
相手の名前は…ライアンとでもしておこう。
僕は早速、動画サイトで「翳りゆく部屋」を検索した。
「エレファントカシマシ」の「翳りゆく部屋」が出てきた。
(後で知ったのだが、原曲はユーミンだった)
『輝きは戻らない 私が今死んでも』
この歌詞に込み上げるものがあった。

『ライアン、聴いたよ!凄くいい歌だった。教えてくれてありがとう』と僕はライアンにメッセージを送った。
『それは良かった。ヘイベイビー。僕の話を聞いてくれるかい?』とライアンから返事が来た。
『うん、良いよ』と僕は返した。

ライアンからメッセージが送られてきた。
『僕、もうすぐ死ぬんだ。今は君からものすごく遠い場所に居る。詳しくは言えないけど。最後にやりたいことがあるから付き合ってくれないか?』
僕は『僕で良かったら』と返した。
すぐに返事が来た。
『僕の最後の友達になってこのやりとりを最後の最期までしてくれないだろうか?』と返って来た。
『うん、良いよ。』
最初は嘘だと思っていた。
それが事実だと気付かされたやりとりがあった。

『ヘイベイビー。お願いがあるんだ』
『どうしたの?』
『最後の最期のやりとりが終わったら喝采を歌ってほしいんだ』
ライアンには僕が歌手を目指しているという小さな夢を打ち明けている。
『翳りゆく部屋は良いの?』
『それもお願いしたいなぁ』
『良いよ。君の為に歌ってあげる』

それから三カ月以上の月日が流れてライアンからのメッセージが来ないうちに僕はコンサートが出来ることになった。
リハーサルをしている途中にスタッフさんが報せが届けてくれた。
そこには黒い縁取りがあった。

幕が開いた。
観客の拍手の中にライアンが居る気がする。
そして、ステージに鐘が鳴って僕は歌いだす。
『いつものように幕が開く♪』
『窓辺に置いた椅子にもたれあなたは夕日見てた♪』

ヘイベイビー。
最後のお願い叶えたよ。
ヘイベイビー。
これが僕の翳りゆく部屋の喝采さ。
ヘイベイビー、ライアン。

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