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「真実の愛エンド」って何? 最高に大人なBL漫画「ヴィクトリアミランの代償」がすごい

「ヴィクトリアミランの代償」という漫画を読みました。上中下同時発売で完結しているので、一気読み。そして止まらぬ号泣……。貴人と梓の、幼い頃に芽生えて生涯揺らぐことのなかった愛に拍手が止まりません

この漫画、結末が「BL漫画にあまりないパターン」なので物議を醸しているようです。ある人は「ハピエンだ」と言い、ある人は「バドエンだ」と言い、ある人は「メリバでは?」と言う……。

そんな中、作者さまが読者の方の感想を引用し「『真実の愛エンド』でお願いしたい」とつぶやいていました。

このツイートを受けて、「『真実の愛エンド』ってつまりこう言うことでは?」「そもそもエンディングの分類は、『ハピエン・バドエン・メリバ』だけでは足りないのでは?」と様々なことを考えたので、noteに書き残します。

途中まではネタバレなしで解説しますので、もう読んだ方はもちろん、「物議を醸しているエンドに耐えられるかわからないので読めない」と言う方も参考にしていただけたら嬉しいです。

真実の愛エンドとは何か

いきなり本題ですが、真実の愛エンドとは何か。
私は下記の図のようなことではないかと思っています。

ヴィクトリアミランの代償は「真実の愛エンド」!

ここで重要なのは「何を以ってハッピーエンド・バッドエンドとするか」だと思います。「2人が両思いならハッピーエンド?」「いや、一生一緒に暮らすのがハッピーエンド!」など、様々な解釈があると思いますが、私は文字通り、幸せな人生を送れるのがハッピーエンドだと思っていて。「じゃあ幸せな人生って何?」と考えた時に「『愛』と『健やかな生活・人生』が両立できているのがハッピーエンドなのかな」と思いました。

繰り返しますが、ヴィクトリアミランの代償は「真実の愛エンド」!

これはメリバと真実の愛エンドの違いを考えるとわかりやすいと思います。

メリバ作品って「好きだから心中する」とか「監禁された部屋で2人だけで生きる」など「健やかな人生」が損なわれているものが多いと思います。でも、2人はそれでいいと思っていて、そこに愛があるから「嬉しいし、満たされる」

「真実の愛エンド」は反対で、つまり「切ないハッピーエンド」なんですよね。お互いに愛が通じ合っている。仕事も周囲との関係も良好で、健やかで幸せな人生を送れている。でも、隣で過ごせた時間は短かったから、切なさが募る……。「ヴィクトリアミランの代償」のエンドはそんなエンドです。

私はもうこう言う作品が大好きで大好きで仕方なくて……!
たとえ会えなくても、愛し合った日々と想いがあるから強く生きていける」みたいなの、本当に尊くないですか。愛が深くなきゃ成立しない。どんな逆境にも負けないほど深く、人生を豊かにする愛を貴人と梓は育むことができたんだよね。うっ、泣けてきた……。

2人ははっきりと自分たちの人生のことを「幸せな人生だ(った)」と言っています。愛があって、幸せで。でも切なくて。これが「真実の愛エンド」の本質ではないでしょうか。

「真実の愛エンド」がBLにあまり存在しないワケ

少し話がBLから逸れますが、昔、学生演劇の脚本を書いていたことがあります。その際に、脚本がうまく、プロに片足を突っ込んでいた先輩に極意を聞いた際に「『幸せなバッドエンド』と『切ないハッピーエンド』は記憶に残りやすい」とアドバイスを受けたことがあります。そう、上記のグラフの考えは、その時の受け売りを考え直したものなんです……。

そうしたアドバイスから生まれた脚本は全て「幸せなバッドエンド(メリバ)」でした。なぜなのか。「切ないハッピーエンド(真実の愛エンド)」はすごく描くのが難しいんですよね。単に人と人が別れただけだとあっさりしたバッドエンドみたいになってしまう。それまでの出会いや過程がどれほど大切だったのか、どれほど人生を豊かにしたのか。その感情を描き出すのが難しい。

特にBL作品は、ボーイズラブというだけあってテーマが「愛」だから、「愛」を暴走させた「メリバ」は比較的描きやすい。それに比べて、2人の関係には満たされない切なさが残るけど、「愛の強さ」と「健やかな人生」は確かにここにある、という「真実の愛エンド」はすごく描くのが難しいのではないかと思います。

満たされなさを持ちながらも「健やかな人生」を実現するストーリーは、登場人物がすごく社会的で大人な思考・行動の持ち主じゃないと成り立ちません。だからこそ、これを描けたら最高にリアルで大人なロマンスが生まれる。「ヴィクトリアミランの代償」に胸を打たれる人が多いのも、貴人と梓の選んだ人生の誠実さがあまりにもリアルで、迫るものがあるからではないでしょうか。

ここまでで、気になった未読の方はぜひ「ヴィクトリアミランの代償」を読んでみてください。下巻はとっても切なくなるけど、2人の愛は2人の人生を豊かに照らしていたんだなと、私は思います

それにしてもめっちゃ癖だった〜

ここから先はネタバレを含みます!

「ヴィクトリアミランの代償」、なんというか私の性癖を練り合わせたらできました、みたいな作品でびっくりしました。

正直ブランド服とかゴシックっぽいデザインはあまり好みの方ではないのですが、そういうデザイン部分ではなくて、ストーリーがあまりにも癖だった。

以下に、刺さったポイントを羅列します。

・「会いたくなかった」タイプの再会
・再会時にはお互い別のパートナーがいる
・不倫設定
・別れなきゃと思いながら続けている不毛な恋愛からの脱却
・↑にDV設定が入ってること
・文化・芸術系のお仕事もの
・仕事と愛がリンクする感じ
・遺言を公正証書として書くほどの重い愛
・一緒にはいられないけど、愛が2人を強くする、みたいな関係性
・死ぬまでを描く作品であること
・幸せな人生だった、と言える強さ
・真実の愛エンド!(切ないハッピーエンド)
・墓!!!!!!!!

ざっと思い返しただけでもてんこ盛り……。
本当に癖が詰まった作品に出会えて最高でした。

正直、2人があの結末を選ぶには、もうちょっと貴人が家族を守るべき理由が深くてもいいんじゃないかとか、あの程度の障壁なら押し切って2人でわがまま通して生きても良かったんじゃないかと考える時もあります。いっそのことなつめくんが実子の設定のが良かったのでは?とか考えました。

でも違うんだよね。梓が全部言ってるんですよ。「ここで俺を選んだらきっとお前は一生苦しむ」って。2人はメリバではなく真実の愛エンドを選んだ。その2択しか残されていなかったのはかわいそうだけど、そこであの選択ができる利他的な性格の2人だからこその、このエンドだし、一緒にいることを選ばなかったとしても、ただ一つの約束と愛し合った時間を胸に、誇らしい、幸せな人生送れたんだもんね……。うっ、泣けてきた……。

ニッチな好みだし、描くのも難しいのはわかっているのですが「ヴィクトリアミランの代償」を皮切りに「真実の愛エンド」の作品が増えてほしい!!!私が大変助かるので。

だからこそ「ヴィクトリアミランの代償」がしっかり売れて、しっかり評価されてほしいな、と思っています。

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