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Huretフロントディレイラーの考察その1

はじめに

フロントディレイラーについて、ある程度考察がまとまったので、書き始めよう。
対象はパンタグラフ式のフロントディレイラーのみ。
考察その1は#600の初期型とAllvit型とその派生品についてです。

Allvit, Svelto, LuxeとSchwinn, Sprintを年表に並べてみた。SchwinnとSprintはAllvitとのつながりを可視化したいために追加してある。

パンタグラフ式で最初のものは#600

まずは#600が最初のパンタグラフ式だと思われる。

特徴としてアジャスターボルトはアウター側1本のみで、インナー側は羽根を止める位置で調整するというもの。1960年以前には存在していたと思われ、甲羅なしアルビと揃って広告に載っていたりする。それ以前はヘリコイドタイプなので、これがHuret最初のパンタグラフ式FDだと思われる。

#600には4タイプある
初期型 : 初期型はボディ(#640)に筒状の羽受けがある。羽根のロゴは筆記体。

2次型 : 2次型ボディ(#660)では羽を止めるところがギロチンボルトになっている。羽は1次型と同じ。羽根のロゴは筆記体。この型の派生として、羽根にSveltoの刻印のあるものがある。

3次型 : ボディは2次型。羽がAllvit型と同じように上部に切り欠きがある。羽根のロゴは筆記体。

4次型 : ボディは2次型。羽がAllvit型と同じように上部に切り欠きがある。羽根とクランプバンド全面が#700と共通のロゴになる。1966年カタログに記載あり。

年式不明のカタログらしきもの
1961年の英国の広告から
1961 Allvitの取説より FD2次型 (RDは4つ爪の甲羅あり1次型とセット)
1963 Allvitの取説より FD3次型 (RDは3つ爪の甲羅あり1次型とセット)
1966 カタログより FD4次型

Allvit型の登場

1961年に甲羅付きAllvitが発表されました。このRDの取説の裏面にはAllvit型のFDが記載されていて、これが唯一確認できる文献です。生産されていた時期も極端に短いようです。

1961年 Allvitの取説 (4つ爪の甲羅あり1次型)
1961年 Allvitの取説

甲羅ありAllvitの1次型の取説と表裏になっているのですが、#600初期型も同じ甲羅ありAllvit1次型とセットで取説に書かれているものがあります。どちらが先だったか?自分の考えでは#600は羽根の取り付け方法が後年の#700とは共通していないが、このAllvit型は羽根部品の規格が共通しており、Allvit型のほうが後に出た解釈の方が自然な気がしています。
ただ、こちらのAllvit型はすぐ消滅してしまい、3つ爪Allvit RDの取説裏に書かれているのは#600となっており、Allvit型はごく短い間の生産だったのではないかと考えています。

Allvit型を詳しくみていくと、まず、ボディは真鍮製です、おそらく鋳物、パンがグラフ式では唯一の形状なのでここに最大の特徴があります。スプリングが隠されていてとてもスマートですね。羽根にはAllvitの刻印があり、バンドにはHuretの旧筆記体旧ロゴで刻印があります。このモデルでは、ねじ#808, #825は二つ穴の特殊形状になっています。
また、ディレイラーの可動範囲を決める2本のネジは水平、垂直に配置されています。インナー側のリミットはボルトの頭で羽を抑えるというちょっと変わったもので、そのボルトを跳ね越しに調整するために羽根に穴が空いています。

後年のディレイラーともデザイン的な共通点があります。特にパンタグラフの規格はこの先何十年も継承されていきました。
1. バンド留めの構造
2. パンタグラフ構造
3. 羽根の切り欠き穴

  1. バンド留めの構造 : このバンド留めの構造は#600, #700と同じ構造、寸法で前側のバンドは互換性があります。

  2. パンタグラフ構造 : パンタの羽根部品はこれ以降ずっと共通な規格で、#700はおろか、Club, Challenger, Success, Dopper用に至るまでずっと同じで互換性があります。

  3. 羽根の切り欠き穴 : 羽根のロゴの上に切り欠き穴があります。これは羽根の可動範囲を調整するネジ#814がこの奥にあり、ドライバーを通すために設けられています。その必要のない#600初期型では穴がなかったのですが、#600_3次型、#700ではなぜか穴が空いています。逆にいうとこの意匠の元祖がここにあります。

#800という型番について

Allvit型は#800なのか?
この取説以外にカタログなどで型番を確認できず、なかなか断言できないのですが、分解図にボディの部品番号が#801とあります。#600のボディ部品番号は#6xxですし、#700でもそう、なんならAllvitRDのガワの部品番号は#1901ですから、このFDの型番を#800と言っても良いような気がします。

1961年 取説から

Schwinn(Sprint)について

オリジナルのHuret Allvit型は短命に終わったのですが、このFDは米国向け輸出用として70年代まで長く生産された様子。Schwinn向けだけでなく、Huretブランドでも輸出されており、Huretロゴの羽根(#700と共通)をつけた個体も見つかる。

初期型 : Allvit型で、ロゴがSprintに変更になったもの 
2次型 : ボディのネジ、羽根の形状が新しいもの、Sprintロゴ
3次型 : 羽がSchwinn刻印のもの

以下の写真はネットにあったもので、Schwinn Sprintの最初期型と思われるもので、羽とバンドの刻印がHuretからSprintになっています。また、パンタを支える4つのネジ、ケーブル止め部品もAllvitそのものですが、バンドを止めるネジが異なります。

Sprint FD初期型
Sprint FD初期型
1966年製 Schwinnに装着されている Sprint FD
Schwinn FD

#600と#800 Allvitの時系列

Huretのカタログや取説には部品番号付きの分解図が載せられている。部品番号は3ケタならば最初の1桁がモデル番号を示していると思われます。
例:AllvitRDはモデル番号#1900で部品番号は#19XX。

ケーブル止めネジの番号を見てみると、#600_1と#600_2は同じ#621のセット番号。#600_3と#600_4は#840のセット番号で形状も異なる。さて、#800Allvitの取説では#832のように曲げのあるケーブル留めが出てきており、これが#600_3,4に使われている。RDの組み合わせを考慮すると、#600_1,2は#800前、#600_3,4は#800後と考えて良いと思う。ということで、次の表の時系列になると思われます。

部品番号から見る時系列

#800の名残り

部品番号がそのモデルに由来するものがわかったので、後年のモデルの分解図を見てみると、後年のFDに#8xxの部品がある。

1975年のカタログのChallenger FDの分解図をみると、FDのモデルは#950だが、部品ベースでみると、#700がベースでボディと羽根が新しくなり、そこに#850というケーブル留めパーツが入っています。ということは、これ#800の名残りじゃないか?

初代の#800のケーブルストップは#832を含む構成でした。60年代のSprint FDにはこの#850が使われていることから、これはまさしく#800FDの名残りで、Challengerが発表される前からあった部品のようです。
ちなみにこの#850の派生として#850L(Success), #855(Challenger II), #880(Club II, Eco)として使われていき、Huretブランドの最後まで残ったようです。

1975年 Challenger FD #950
Schwinn版 #800


余談

Schwinn(Sprint)向けは取り付けバンド径が25.4mmφのものが多く、フレンチ(28.0mmφ)、BSC(28.6mmφ)は希少。

以上


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