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橋本治のすごさ - ほぼ日の学校:橋本治講座に参加して

 「ほぼ日の学校」にはこれまで、2018-2019年のシェイクスピア、万葉集の講座に参加。そして今年2020年は橋本治講座に参加することができました。

恥ずかしながら、橋本治さんについては全くの初心者の私。ほぼ日の学校の講義で2回、古典についての講義を聴講したことがあるくらい。「桃尻語訳 枕草子」は学生当時、NHKの番組があり古典の勉強も兼ねて熱心に見ていた記憶がある程度でした。

ではなぜ、橋本治講座に参加しようと考えたのか。それは2019年9月の会社帰りに歌舞伎座で「勧進帳」を観たことが始まりでした。 

ほぼ日の学校に参加したことがきっかけで、学校参加者の歌舞伎好きの方々に歌舞伎の観方を教えてもらい、時折、歌舞伎を観に行く会に参加しています。(早くまた皆で観に行けるようになるといいなぁ)皆さん本当に色々と歌舞伎に詳しくて感心するばかり。これまで全く歌舞伎に親しんだことがなかった私は少しでも追いつこうと、会社帰りに隙あらば歌舞伎座の幕見を狙って観劇していたのでした。
 そのような流れで、あまり予備知識もなく「勧進帳」を初めて観劇。 「勧進帳」は、追われる義経と武蔵坊弁慶が姿を変えて奥州平泉を目指す途中、幕府が設けた安宅の関で詮議を受けるという筋なのですが、幕が始まって最初の場面。百人一首でおなじみの「これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関」の歌詞で音楽が流れ..。「これって百人一首の蝉丸の和歌だったよな?」と気になりました。帰宅し、ちょうど橋本治さん著「百人一首がよくわかる」が手元にあったので、確かめるために10番目の蝉丸のページをめくったところ...

ー和歌は、「歌」なんです。歌舞伎の『勧進帳』では、冒頭でこの和歌を、そのまんま三味線の曲に合わせて歌います。それを聞くと、「あぁ、歌だなァ」と思いますよ。-

ビックリして椅子から落ちそうになりました... この本では蝉丸の歌について、たった10行程度しか解説されていないのに、そこにはしっかり「勧進帳」の冒頭で唄われていることが記されていました。私のような初心者の思いつき・行動は、橋本治さんにはすっかりお見通しだったわけです...。

自分の個人的なこの体験から橋本治さんのただ者ではない「すごさ」をヒシヒシと感じ、その「すごさ」を確認してみたい!と橋本治講座を聴講した訳ですが、その「すごさ」うち印象的だったエピソードを挙げてみます。

■橋本麻里さんの回。「ひらがな日本美術史」について「一人の歴史観で見通した日本の美術史」としてほとんど例がない画期的な著作と位置付けていました。長谷川等伯の「松林図屏風」見方・感じ方の解説が秀逸で、自分はこれまで屏風という物に全く興味が無かったのですが、この講義の後、俄然興味が沸いてきて、「松林図屏風」目当てでトーハクの桃山展に行ってしまったのでした。

■義太夫節の実演を聞いた回。女流義太夫三味線の鶴澤寛也さんが橋本さんに言われた事により、ご自身の三味線活動を変えて行くことになるエピソードが印象的でした。核心を突くひと言と、その後のフォロー。橋本さんの人柄がよくわかり、お話を聞きながらもらい泣きしそうになりました。

■編集者・松家仁之さんの回。橋本さんが育った実家の様子。家族も多く、また商売をやっている家だったため、家の中には常に多くの家族以外の人々がいる中で幼少期を過ごしてしていること ー 多くの人間を観察し、本質をつかむ眼はこの時代に培われた物もあるのではないかと感じました。

 橋本治さんは、物事の本質・核心をつかむのがうまい人だったのではないでしょうか。全体を俯瞰して見渡すことができ、そこから核心を突いたコメントが出てくる。そして、本人は勉強家でこれ以上ないほど博識でも、初心者を切り捨てることがなく、やさしい。

講座終了後に著作を後追いで読み始めたばかりで、この天才的な人物のほんの片鱗に触れることができただけかもしれませんが、著作を読み進めた後で自分の印象がどのように変わるのかどうか、少しずつ橋本さんの膨大な著作を読み進めて行きたいと思います。


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