『Shi Si St』-05

-05
 間違った。今日はこっちじゃねぇ、リキッドだ。
 公園通りまでさしかかってから気がついた。慌てて踵を返して、駅方面に向かう。焦ったせいか、スクランブル交差点で何回か人にぶち当たってしまった。焦るとロクなことがねぇ。それにしてもさっきのおっさんの鞄、痛かったな。ちょっと声でちまった。みんな急いでるし、みんな避けねぇ。
 ハチ公広場まで来て、もう一度山手線に乗るか、早めに出てきたから明治通りを歩くか。考えながら足が止まってしまったおかげで、人の波がドッと襲いかかってきた。ぶつからないように隅っこにじわじわ移動しながら、とりあえずここを離れようと決める。改札に行くにも、恵比寿に向かって歩き出すにも。どっちに向かって踏み出そうか逡巡したせいで、うっかり小さな女の子を通せんぼしてしまった。女の子、女性、まぁ成人はしてそうな女の子。

「あ、すんません」
「い、いえ……」
 返事をしながら女の子は笑顔だった。通せんぼされてムッとしててもいい瞬間なのに。なんだか、いいものを見てしまった。だからかわからないけど、そのまま明治通りをあるき出した。彼女の記憶を笑顔だけにしたかったから。駅に行くと追いかける形になって、後ろ姿とか余計な情報が入るのが嫌だった。
 高架下を抜け、モヤイを通り過ぎて、246を渡って、明治通り沿いは何時も通り、街なんだか道なんだか、わからない顔をしてた。恵比寿側から行くと、街の顔をしているのに、なんだか不思議だ。女の子とぶつかりそうになっただけで、非日常感が出るんだろうか? 彼女が握りしめていたものはなんだろう。これから行くライブのチケットだったら熱いけど、チケットなんて大事なモンはひと駅前から握りしめないし、そこまで盛ったらフィクションすぎるよね。
 自分のバカさに呆れ笑いしながら、のんびり歩く。

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