今日の言葉(その6)

今日の言葉:採取場所・ネットの海
「寝る前の儀式」

 どうして好きなのか、どこが好きなのか、そも好きなのか、ぐるぐる考える。

 声が好き。ぼそぼそと通らない声、でも低くてまろやかに鼓膜を震わせる声を、わざと聞き返すのが好き。もう一度聞きたくて、もっと聞いていたくて。
 顔が好き。四角い顎から耳に伸びる輪郭を髪の毛が覆って、羨ましい高い鼻からちょうど良いここにあるべきという感じにある目、柔らかな印象を与える眠たげな目。そしてその視線を鋭利にする眼鏡。
 手指が好き。決して細くはない腕から、突然手首でスッとシャープになる感じ。長い指、大きな爪。骨がはっきりとわかる指。作り出す指先。繋ぐと優しく絡んでくれる指。
 体型が好き。昔は好きじゃなかったけども、背の高い人が平気になった。でも歩きながら喋るのには、ちょっと難がある。大好きな声が身長差のおかげで本当に聞き取れないこともあるから。固そうに見えるけど抱きしめると柔らかい安堵を感じる肉付き。
 匂いが好き。匂いというほどもないうっすらと香るしっとりとした体臭。タバコの残り香。たまにするシャンプーの香り。キスが好き。強くなく、弱くなく、温かみと柔らかさをしっかり伝えるような。指よりも繊細に圧迫感を感じさせないギリギリに侵入する舌。舌先に触れる歯の感触。

 やっぱり好きなんじゃない。
 繰り返すこの作業。
 嫌いな部分は一切思い出さない。
 好きでいるための作業。
 好きなんだなともう一度、自覚して飲みこむための儀式。

 そこで敢えて、これがすべてもう二度と感じられなくなってしまったら、そう考える。嫌だ。怖い。失いたくない。
 だから、ちゃんとまた会いたくなる。喧嘩をしてしまっても、こちらから連絡をする気になる。会ったらもう一度確認して、更新して。そうやって続いていく。そうやって続けてく。そうやって続いてくと信じ込む。
 夢で逢えたらと思いながら、目をつむる。
 いつ逢えるかなと思いながら、息を吐く。
 
――それが、寝る前の、儀式。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?