『Sh Si S』-03

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 いつものように流されて、つまらない会社の飲み会を断れるはずもなく、1次会だけ顔を出して、逃げるようにスクランブル交差点の激流に飛び込んだ。流れにうまく乗れず、よれよれとスクランブル交差点のど真ん中、Xの真ん中に来てしまった。
 と、石ころがあった。石ころ、というには平ぺったくて、すべすべで、水切りしたら6回以上は少なくとも跳ねそうな石だった。誰も気にしていない、誰も蹴ったりしない、踏んだりもしない。石ころはそこにあり続けていた。わたしだけが石ころに気づいているようだった。

 私自身が蹴られないように、流れを止めないように、信号が変わる前に、あの石ころを手に取れるだろうか。自らに急なミッションを課した私は、小走りで石ころに駆け寄った。素速くしゃがんで、右手で拾い上げ、立ち上がる勢いでほとんど走るように横断歩道を渡りきった。石ころは拾ってみると、わたしの掌の半分くらいの大きさで、見た目どおり石にしてはすべすべで、キュッと握るとひんやりして気持ちよかった。手の中の収まり具合も、なんだか心地よかった。

 石ころを握りしめたまま、いつもより顔をあげて、改札口に滑り込んだ。

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