『S S S』-01

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 道端の石ころにでもなってしまいたい。そう思っても、大きなスクランブル交差点があるこの街にはそんなものすら無い。
 石ころにすらなれないので、どうしようもなく重たい足を引きずって、点滅する信号に追い立てられるように、轢かれて誰かに迷惑をかけないように、なんとか渡りきった。
 誰かに迷惑をかけたいわけじゃない。でも迷惑をかけずに死ぬことすら、この街では、この国では不可能だ。じゃあどうすればいいんだろう? もう生きる意味など見いだせない人々が同じ顔をして歩いている。そう思うしかない。みんな同じ気持ちなんだって、思い込むしかない。けれど、やっぱり生きることに、生きていくための条件が日に日にのしかかって苦しくなる。
 もうがんばりたくない、がんばれない。生きるためにはお金が必要で、お金が要るなら働かなければならない。当たり前だ。けれどもう働くためにがんばれる力はとっくに尽きている。尽き果てている。もう楽になりたい。働かなければならないなら、死んだほうがずっといい。そう思い続けて生きながらえている。今日もまた生き延びてしまった。人とは思えない形をしながら乗る帰宅列車に揺られながら、密着する人に息を吹きかけないように気をつけて、誰かが不快に思わないように小さく小さく、ため息をついた。イヤホンはつけない、スマホも見れない、息を吸うのもやっとの圧縮空間で、もう一度思う。
 石ころにでもなってしまいたい。
 わたしの心の日記はここ何ヶ月、いやここ何年か、その一文しか綴られない。

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