『Shib Sill Stre』-10

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 ぼーっとして、たまに感想を述べる。そこは痛い。それくらいなら大丈夫。なにも感じない、ずれてるんじゃない? あー、いいねそこ、気持ちいい。指圧とか鍼ならこんな感じのことをポツポツと。整体とかだと、大丈夫とか平気とかの言葉が多い。お灸だと、それに熱いとかが加わる感じ。  
 ぼーっと身体をいじくりまわされながら、素直な感想を述べるだけのバイト。間違って死んじゃったりしないの? 酔った勢いで全然知らない隣の席の人に喋ったときに聞かれたけど、そういうこともあるんじゃないのって返すしかなかった。ただ、僕はまだ酷い目には合ってないし、お金はいいしで、需要と供給が成り立ってるからいいんじゃないかな。
 先生と呼ばれる人は、坂で歩いている僕に声をかけてスカウトした。その日一日で一番ぼーっとしていたのが僕だったそうだ。失礼な話しだなっておもたけど、ぼーっとするだけでお金が貰えて、ぼーっとしてても怒られないなんて最高なんで、いまはなにも文句はない。というか、その日一日で一番ぼーっとしてるっていうのは冗談だったらしい。本当にそうだから、冗談かどうかも僕はわからなかったんだけどね。そして今日も、今もいつもどおり、ぼーっとしている。

 が、いつもどおりじゃないことが起きた。

 鉄のドアがノックされ、女性が返事をする前にドアが開いた。鍵かけてないのかよ。僕、無防備なのになぁ。髭の、でも若そうな男が、同じくらいの年齢……20代後半っぽい男を抱えて入ってきた。抱えられた男は一人で歩けなさそうだ。この階段をよく抱えて登ってきたなぁ。
「先生、すみません! こいつ抜かれてるみたいで……っ」
 先生が無言で立ち上がり、僕と目が合うと顎をしゃくってベッドをどけと指示してきた。

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