『Sh S S』-02

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 オフィスの最寄り駅はターミナル駅過ぎて、どうにも人が多い。どこに、どんな風に、この沢山の人達が格納されていくのか、想像なんてしても意味はないけれど、一瞬だけ気になるときもある。人々はドアから一気に吐き出され、階段もなんのそのの急流になって、改札口から吐き出されていく。
 ダムの放流みたい。河川ではなく社会を維持するための放流。社会維持放流。その一滴がわたし。立ち止まることは許されない、流れを留めてはいけない、ただただ流される、自分のデスクの椅子に座るまで。
 石ころになれば、留まることを許されるのだろうか。留まっても大した流れを変えることなく、見過ごされるようになるのだろうか。それとも邪魔だと蹴られるのだろうか。一滴と一個。流れるだけの形のないものと、固く留まる石ころ、やっぱり石ころのほうが羨ましい気がする。流れて、流されて会社に着いて、流れて、流されて、帰宅する。会社も、自宅も川の流れの端っこにあるちょっとした流れが遅い淀みのようなところで、常に流されている。仕事だってそう。表面上では自分で流れを作って、自ら取りに行くことが善とされているのに、実際は流れに沿って上流から流れてくるものを、下に流していくだけ。流れに逆らうことは許されない。私は魚ではなく、ただの一滴なので、流れに乗るしかない。早く終わればいいのにと、流れを止めないように、水しぶきを上げすぎないように、手を、指を限られた時間で動かしているだけ。ただの流れには、やりがいもなにもない。

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