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『T Shibuya Sillies Street』-19

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 ぶつかられた? 触られた? そんなんたくさんありすぎてわからない。

 だって、箱にいたんだぜ? ライヴハウスで、混雑するフロアで、そんなんあり過ぎだろうよ。声も出せない、手も動かせないオレは目だけで訴えてみた。通じるんだろうか。このオトキダさんは表情が読めない。ぶつかった、ぶつかったかー、ぶつかりそうになった、通せんぼしちゃったなら記憶に残ってるんだけどな。あの笑顔の女の子。その前にはなんかあったっけ? ぶつかったはともかく、触れられたなんて指先1本なら気づかないかもしれないしなぁ。このトーキョーで電車でバスで、ちょっと触れるなんてのはいっぱいありそうだ。それにしてもあの女の子可愛かったな。なんか大事なもの持ってる感じがまたよかったよね。

「それです」

 なにが、それなんだ。っていうか、オレは声も出してない、誰も何も言ってない。なのにそれってなんだよ、どういうことだよ。
「その女性は友人でもなんでもなく、ただ街ですれ違っただけなんですね」
 は? そうだけどって、なんでオレの考えてることわかったんすか。気持ち悪っ。

「あ! そうか、だから目が……」

 今度はサクラバとかいう男が声をあげた。
「サクラバさん、気づいてたんですか?」
「いや……久しぶりの感覚だったんで、これがそうだって教えられたのを忘れてました。ただのドライアイかと……」
「……仕方ありませんね。この界隈で尻子玉が抜かれたのは6年ぶりのことですから」

 おいおい、思ったより頻繁に抜かれてるじゃねぇか、尻子玉。

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