第四十段 椅子 ボールチェア 続き

空高く、はるか彼方よりボールチェアが飛んでゆく。ポンコヅ君のマンション、4階部分へ。

咲き始めたばかりの桜、チューリップ、菜の花、その他色々。それぞれの花びらが、二人の入ったボールチェアを追いかけ、舞い散ってゆく。

雨風強いのに、濡れないのは、誰が誰かを守っているならなのか。チェアの中は、快適だ。苦痛に顔を、歪めるポンコヅ君以外には。

耳もとに話しかける、

「大丈夫ですか?もうすぐつくからね、頑張って。

大丈夫だから」

なんとかなる。妙な自信だ。聞こえていないかもしれないけれど、繰り返し呼びかける。

虫の知識は、疎い。ちゃんと学んでおけばよかった。まさか、虫が現れるとは思ってもいなかったから。

どんな虫だったのだろう。ちゃんと聞いておけばよかった。春の雨さんが、戻ってくるまでになにを、何かをしてあげたいけど。

どう対処していいかわからない。けど、大丈夫、だよね。


マンションの4階、多分彼の部屋部分の壁に到達。

壁の横に張り付いたかと思うと、ぼあんとチェアがめり込んだ。

ずふふふ。つるーん。

壁の向こう側。暗い部屋に入り込んだ。

ドーン。


暗い部屋、ベッドには人影。

チェアはかなりな音と存在感を持って、部屋の中央の、わずかな隙間に、着地した。

しまった。ポンコヅ君の部屋ではない。

足のふみ場のなさそうな、チラシ広告、車やバイク関係の雑誌が散乱した部屋。石がたくさん並んだ、清々しいあの部屋とは、雲泥の差。

間違いなく、ポンコヅ君の父上の部屋?

「…なんだ、地震?爆発?」

ベッドから驚いて飛び起きた、眠そうなと顔を見合わせる。

ちょっと心の、準備が。

あたふたと、ボールチェアから降りると、

「はじめまして、お父様」






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