イハナシの魔女がめっちゃ面白かったので魅力を頑張って言語化して伝えようとしました。


キービジュアル(My Nintendo storeより)

 結局のところ、現代ではコスパが重要なわけなんだよな、と感じました。
 この世にはいまやとんでもない数のコンテンツがあふれているわけですから、過去の良かったコンテンツを掘り返すだけでも、自分がたいそう満足できるような作品は余るほど多いわけです。
 としたときに、私がなぜ「イハナシの魔女」をプレイしたときに、こんなにも満足し、感動したのか、自分でも正直よくわかりませんでした。本当に素晴らしいゲームだったのですが、それがなぜ素晴らしいかを人に説明できなくて、少ない語彙力でもどかしい日々を送っていました。
 この度、うんうん考えてようやく「あ、だからか」と自分の中で腑に落ちたので、ネタバレに抵触しない範囲で、イハナシの魔女の、私が考える魅力をかいつまんで説明したいと思います。

 イハナシの魔女は、かなり古き良き作りのアドベンチャーゲームです。特に背景などの絵の部分ではどこか懐かしさを感じるようなテイストで、全体的に0年代後半から10年代前半くらいのアドベンチャーゲームをやっているような感覚です。これは私がこのゲームを手に取って遊ぼうと思った理由でもありました。
 しかし、中身のクオリティーがとにかく「凝縮」されていて、そこはある種現代感を感じました。この作品では、(体感)少ないテキストで、以下の2つのことを実現しています。
・各キャラクターの心情を丁寧に描写し、サブキャラクター含めて物語に特有の「都合よさ」を消して、そうなるように動くのが当然と思えるような感情移入をさせること。
・恋愛一辺倒ではなく、青春ものやホラー要素など、群像劇の中に多様な要素を盛り込んでいること
 順番に説明していきます。

・各キャラクターの心情描写について
 物語なんかではよくあると思うんですが、この作品にはそれなりに多くの人間が登場します。メインの主人公含め動くキャラが6人いて、サブとして出てくる大人も含めるとだいたい15から20人くらいのキャラクターが出てくるかなと思います。
 これだけキャラクターがいれば、一人ひとりの個性や葛藤にフォーカスを当てることは難しくなりがちです。また、それを実現したとしても、例えば「個別ルート」みたいな形で、主人公との1対1の関係にフォーカスするばかりで、ほかのキャラクターとの関係性がどうなっているか、という点が語られない作品が多いんじゃないかなと思います。私的な感覚では、生活感がない、といったところでしょうか。
 イハナシの魔女は、それを解消するために、2つの工夫をしています。それは「視点移動」と「個別ルート自体をトゥルーエンドの通り道に置く」ということです。
 視点移動については、ほかの作品でもかなりみられる趣向ではあるので、取り立てて騒ぎ立てるほどのことではありません。しかし、この作品は、特に中盤から終盤にかけては、主人公視点から別のメインキャラへ、また、立ち絵がないようなサブキャラへ、と、必要な場面で必要に応じてコロコロと視点移動をさせています。私自身、Othersとして立ち絵のない人の回想や心情描写が入ったときには結構びっくりしましたが、これは「作品の中とは言え、各キャラクターもそれぞれ何かしらの思いがあって行動しているんだよ、ただ単にいじわるしようとかいやがらせしようとかそういうことじゃないんだよ」ということがしっかりわかって、そのあとの主人公たちの物語を読み進めるのに十分なアクセントとなります。
 個別ルート自体がトゥルーエンドの通り道、というのはまあ読んで字のごとです。作品の中で一つの時間軸のみが進んでいるのでテキスト的に「今どういう状況だっけ」と迷子になることは少なく、ある人のエピソードを解決したら、その関係値のまま次のエピソードに進みます。よって、個別ルートで深堀した「彼(彼女)は何を考えているのか」というインプットを引き継いだまま、物語が読み進められるわけです。そうなると、例えばサブキャラが物語を動かすような行動をした際にも「そりゃこいつならこう動くよなぁ」というのが、キャラクターに実感としてありますし、各キャラ同士のからみについて、因縁や角質があったり誰かが誰かを嫌いだったり(あるいは好きだったり)というのがインプットされた状態なので、違和感がなくリアルなんですよね。
 といった感じで、全体的に時間軸をまとめつつ、各キャラクターの視点を交えて各々の考えをしっかりと伝えてくれていたからこそ、物語に「生活感」に近いリアリティがありました。だからこそ、主人公やメインキャラのピンチでは同じようにキュウってなっちゃうし、続きはどうなるんだ、って気になるんですよね。

・バラエティに富んだ内容
 例えばほかのゲームでも、キャラクターのルートごとに「別ジャンルか」と思うくらいバラエティに富んだ内容になっているゲームってありますよね。
 イハナシの魔女も、先に述べたようにキャラクターの個別編ではまあほかの作品と同じように各キャラクターの悩みや葛藤みたいなものにフォーカスを当ててそれを解決していくような構図で進むんですが、これが結構しっかりと色分けされています。
 例えば最初のアカリちゃん編だと、最初の方は相当コミカルなだけですが、後半はかなり純粋な成長葛藤ものをやってくれていますし、比嘉さん編は(ネタバレになるのでここはやって確かめてください)という色がめっちゃ強くて泣きそうになった(というかちょっと泣いた)し、リルゥ編はごりごりに宗教チックホラー要素があります。作品として次々に出されるあの手この手の展開にどんどんついて行ってしまう、という感じなんです。この作品に特有の点が何かっていうのが、この展開のさせ方を「比較的短いテキストで」「地続きで実施してくる」ということなんですよね。ほかの作品だと、個別ルートがあって、好きなものから食べてくださいねーみたいなバイキング形式みたいな感じで攻略するのが主流だとしたら、この作品はコース料理で座って食べていたら中華よ和食と洋食が出てきた、みたいな感じの作品です(いい意味で)。しかもすべてうまいです。ずるいです。なので、テキストに飽きる前に走り切っちゃう、というかんじですね。

 まあつらつらといろいろ書いたんですけど、結局、大きな一つの物語に身を任せていたら気が付いたら終わっちゃってた、みたいな作品なんですよね、イハナシの魔女って。
 テキストを重ねれば、上にあげた二つの要素を満たせる作品って実際世に結構あると思うんですけど、それがかなりコンパクトにまとまっていてかつ満足感が高かったのが、この作品最大の魅力なのかな、と。
 皆さんもひと夏の思い出にぜひ遊んでみてください。そして感想を語り合いましょう。

この記事が参加している募集

今買うべきゲーム

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?