愛するヒビ
9月の空が真上にあった。
営業成績はナンバーワンなのに
誰のオンリーワンにもなれない。
どれだけお客様から、
「あなたじゃなきゃ」といわれても
私生活はちっとも幸せじゃない。
なにそれ。なにそれ。なにそれ。
十年来の友達から届いたラインの
文字が歪む。
「言いにくいけどさ、
友くん、浮気してる、、。
この前、見てしまった」
ふむふむ踏む。わたしは溶けてしまうしかなかった。へぇ。もう、案外意外に平気な顔で1日仕事こなせるくらいの大人でいられる自分が憎い
文字が歪むだけだし、空は真上にある。
9月だね、9月だよ。
全然成績とってもこないし、
入って3ヶ月ですでに、
「できちゃったかも〜」なんて言っちゃう
新人はわたしより何百倍も
オンリーワンだしナンバーワンだよ
友くんよりあの新人のはちきれんばかりの
笑顔ばかりおもいだす
化粧室で、ポーチから
引っ張り出したコンパクトミラーが
割れていた
くしくも、友くんからもらったやつだ。
ねえ、いま、この文章を読んでる人はさ、
友くんが、 ともくんなのか、ゆうくんなのかって
思ってるよね どちらでもいい?
そうだよね そうだよ
わたしだって どっちでも たいした違いはない
ヒビ割れていた あっさりと
いつ割れたかもわからないし
誰も何も悪くはないのだろう
真実も事実も現実も
人の数だけあるのです
ナンバーワンでもいいし
オンリーワンでもいいし
ひとつになりたかったんだねわたし
叶ってしまったよ
一人ぼっちだ わたし
わんわんわん
わたし 一人ぼっちだ・わん
9月の空も真上にいてくれた
明日も予定通り
ゆうくんだかともくんと
会うだろう
わたしはわたしのふりをして
会うだろう
嗚呼、あゝ、愛すべきヒビよ
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