頼介伝トークイベント2

トークイベント『頼介伝』で楽しむ「神戸の150年」

 神戸の知られざる起業家、松原頼介の生涯を追う物語『頼介伝』の刊行を記念し、出版元である苦楽堂さんが主催されたトークイベントに参加しました。
 イベントは、2018年8月5日、神戸三宮シアター・エートーにおいて、『頼介伝』著者の松原隆一郎さんを地元神戸のパネラーお三方が囲んで語りあう、パネルディスカッション形式で開催されました。
 詳細はリンク先をご覧ください。

 著者の松原先生のお祖父さんが「頼介」さんであり、『頼介伝』にはその名のとおり頼介さんの半生が描かれています。
 ただ、私がこの本の出版予告を目にした時には失礼ながら、「一体誰が、自分のおじいさんの人生を書いた本を買うのだろうか」と思ったものです。
 また、そこには日本の近代史も関わってくるのですが、残念ながら小学校の頃から私の歴史の成績は芳しくないもので、これまで興味を持ったこともありませんでした。
 にもかかわらず本を手にすることとなった理由は、このイベントと表紙にあるでしょう。

 なかなかに硬い文章の本であり、著者の方も硬い方なのだろうかと、好奇心半分、期待半分、不思議なワクワク感を持って、会場である神戸三宮シアター・エートーへ赴きました。

 「神戸の150年」がイベントタイトルに含まれています。
 私が持っている神戸の印象は、戦後のごった煮の面影、異人館や居留地といった異国文化の匂い、ハーバーランドのある港の風景、そういったもので出来ていました。
 距離は遠くないけれども、身近ではない、そんな街のひとつです。

 数年ぶりに降りた三ノ宮駅。駅付近は再開発のさなかなのでしょうか、混み合った人通りの中をバリケードを越えて東に進み、大通りから少しはずれ、静かな道沿いに入りました。

 こんなところにあるのだろうか、という区画に、神戸三宮シアター・エートーはありました。
 1階が赤い壁の、3階建てくらいのコンパクトな建物です。
 すでに入場が始まっていたので、受付を済ませて、お手洗いを借りて(お手洗いもとってもコンパクト)、開演を待ちました。

 シアター・エートーの客席数は100席ですが、あれよあれよという間に人で埋まっていゆき、ほぼ満席となりました。年配の方が多かったように思います。
 しかし、思ったよりも参加者がいるものだなぁと、ここでも失礼ながら感心していました。

 イベントの進行は、苦楽堂:石井さんの軽快なご挨拶、ご連絡から始まり、パネラーのお一方である神戸新聞:加藤さんへバトンタッチ。

 パネラーのみなさまから作品や研究内容を含む自己紹介をいただき、なるほど、『頼介伝』……神戸の歴史とも言い換えられるでしょうか、それを縦糸に置き、補完するように神戸新聞社の積み重ねた歴史があり、鳥瞰図絵師:青山さんの「港」、都市史研究者:村上さんの「闇市」という横糸で広がる、そんな構図になっていました。

 神戸という街の話であると同時に、起業家、もしくは祖父としての頼介さんや、著者:松原さんの生きてこられた道が、ほんの一瞬照らされるような話もあり、トークのスパイスになっているようでした。

 顔合わせもままならぬままのイベント本番となったとのことでしたが、さすが、それぞれに専門をお持ちの方ばかりで、話題や質問、回答の素材がなにかしら出てくるという、あっという間の2時間でした。

 後半には参加者からの質問コーナーがありました。
 前半で多くは触れられなかった、起業家という切り口でのご質問があり、その回答は笑ってしまうような、起業する人に対するイメージを良い意味でいい加減に塗り替えるものでした。

 シアター2階の売店ではパネラーの皆さんの著作やおススメ本、苦楽堂さんの出版書籍を扱っておられました。
 『頼介伝』をすでに購入されていた方も、売店で何か購入すれば、サイン会の参加券がもらえるという企画もありました。

 本の著者さんのイベントというものには初めて参加しましたが、文章やお写真からはわからないような、人となりの魅力が垣間見られるようで温かみがありました。
 また、パネルディスカッション形式という、様々な角度からスポットを当てられる開催形式のおかげで、本から飛び出して広がっていくような面白さがありました。

 イベントに参加すると、新しい発見や知的な刺激を受けるものですね。
 今後も機会を見つけて、異世界に片足を突っ込んでみたいものです。