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芸術作品に泊まるという体験

2022年5月24日

はじめのきっかけ

東京に行ってどこに泊まろう。ビジネスホテルを検索していたが、どこか心にフィットしない。便利なのだけど、何かが違う。2年ほど自由に行動できない状態が続いていて、自分のこころのモヤモヤが溜まっていた。

ココロもカラダも思考回路も解放したい。

そう思った時に、天命反転住宅の存在を思い出した。いつか見学ツアーに参加したいと思っていたが、日程や昨今の事情で難しい状況だった。いっそのこと泊まってしまえば、建物も堪能できて、いろんなものから自由になれるのかもしれない。ショートステイの金額は、ビジネスホテルに泊まるより遥かに高い。そして、天命反転住宅は三鷹駅からバスで20分くらいのところにあり、観光するにはフットワークの軽い場所ではない。

ネックとなる二つのことを一週間かけてじっくり考えた。
観光は、メインの予定に合わせてシンプルにまとめよう。いつものように詰め込みすぎない。ひとつひとつを大事に楽しもう。
予算のことは、自分のココロの栄養と建物の存続維持という二つの面で考えると妥当な金額と思った。

私は建物が好きで、建物に生かされて、建物で世界を広げて生きてきた。その感謝の気持ちも込めたい。

泊まることに決めたら、ワクワクが止まらない。

三鷹天命反転住宅到着

三鷹天命反転住宅の外観

カラフルで自由な形の外観。管理している方が出張中だったため、事前にいただいたメールに従ってセルフチェックイン。メールを見ながら、門扉を開け、エレベーターに乗り、3階で降りた。真正面が2名ショートステイに使われている『極限で似るものの部屋』だった。ここまでのアプローチでゲームをしているような高揚感。鍵を開けて、電気をつけた。

第一印象

はしご?から入口を見た写真

Webサイトや書籍、動画でも見て部屋のに内装は知っていたが、知識として知っているものと体験したとでは全く違う。扉を開けた瞬間、息を呑んだのか、止めたのか、目を丸くしたのか、立ち尽くしたのか、小躍りしたのか覚えていない。それくらい興奮した。こんな体験はじめてだったのではないだろうか。我に返り、靴を脱いで、歩き出すとうまく歩けない。同じような凸凹はない。勢いよく歩いたり、走ったりすると怪我をしてしまいそう。生まれてはじめて歩き始めた子供のように恐る恐る歩き始める。うまく歩けるようになると嬉しくなる。クララが立った時もこんな感じだったのだろうか。そんなことを考えた。

足ツボを刺激してくれる床

暗くなってからチェックインしたせいか、この部屋がよそよそしく感じた。ホテルでは感じたことのない疎外感。マンションの一室のせいか、「お邪魔します」という感じだった。パーティピープルな人の中に人見知りが挙動不審に入っていく。場違い感満載。こんなに陽気な空間なのに、なんでだろう。

右手が水回り(UT,WC,シャワー室)

生活してみる

とりあえず、汗をかいたので、シャワーを浴びることにした。
住宅を設計する際に水回りは必要だけど、それをつけると一気に生活感が出てしまう。住宅にはそれが必要だけど、それを極力削ぎ落とした答えがこのカタチなのだろう。芸術作品に住むということはそういうことなのだ。

水回り関係をまとめた部屋

アクリルで遮られたカプセル型のシャワー室は、別世界から現実世界を見ているかのような浮遊感がして不思議だった。この部屋は実質的な扉は玄関のみで、広いワンルームといえば、ワンルームなのである。その空間において、空間を遮る扉は異質に思えたからかもしれない。
(一応2人利用できる部屋なので、シャワー室の外には一応カーテンはある。)

シャワー室から部屋を見てみた

シャワー室の横から部屋を見るとこんな感じ。一気に距離感が縮んだ気持ちになった。空間とこういう風に対話できちゃうんだ。古い建物を見て歩いて、建物と対話することがあるけど、生活空間で対話するのははじめての経験だった。

UTから部屋を見る

二日目。
目を覚ました時に、目が合った!!扉で仕切られていない部屋に唯一の扉が天井に!!初日になんとなくその存在があると感じていたが、目を開けて最初に目に入ったのが扉ということに呆然とする。扉の存在がない部屋に唯一ある扉。しかも天井に。扉が天井にある意味を考えよということか?

天井にあるドア
どこでもドア?

ミッション

二日目、お部屋の取扱説明書などの書類ととも置いてあった白い封筒を開封。これに何が書かれているかというと

白い封筒
白い封筒の正体

天命反転住宅の楽しみ方が書いてる。
(裏面に日本語で書いてありますが、内容は実際泊まってから見た方がいいと思うので、英語面の写真のみにしています。)
全てのミッションを淡々とこなすのではなく、気ままにやってみた。気ままにできるというのは、宿泊しないと楽しめない嬉しい特典である。

居心地のいい中心

IHクッキングヒーター、冷蔵庫、フライパンなどの調理器具はひととおり、揃えられている。ほぼ動かなくて住む動線。シンク、コンロ、食事スペースと合理的。そして、この部屋の中心が心地いい。全ての部屋が見える。中心の柱にもたれながら、作業ができる。他の空間より下がった位置にあるので、視線が低くて心地いい。

部屋の要のキッチン

椅子に座って見える視線はこんな感じ。

キッチンの椅子から見える景色

夕暮れの発見

心地いい刺激を受け、丸い黄色い部屋でまどろむ。夕焼けから夜にかけてのグラデーションと部屋の対比が美しい。黄色い空間で夜を迎えるのはこんな感じなんだ。ゴッホの「夜のカフェテラス」という作品を思い出した。

ここから見える風景は東八道路とその向こうに住宅展示場。規格的な住宅と規格外な住宅の対比も面白い。後から知ったことだが、「CASA BRUTUS No.71 February My Home 2006」によると、住宅展示場があることがこの場所に建築する一つのきっかけになったらしい。その考え方もアートだ。

黄色い丸い部屋

憧れの家ハンモック

この部屋は椅子を拒否している。床がデコボコなので、椅子は不向きだ。コア部分にあるリビングでどう過ごすかというと、カウンターテーブルに置いてある座布団に座るか、ハンモック、ハシゴに座るということになる。ごろ寝ができない。ごろ寝は身体に悪いと考えたのだろうか。じっとすることを拒否しているようである。
整体の先生が、じっと同じ姿勢で座っているのは身体に悪いといつも言っている。バランスボールが姿勢を正すのにいいとされている理由と同じなのだろうか。ずっと動くように仕向けられているのは、「死なないため」の対策だろうか。

ハンモックから部屋を見る
ハンモックに揺られながら呑むお酒は旨い

「死なないため」とは

死なないということは、どう意味だろうか。それは生きるということはどういうことかの問いではないだろうか。ただ、息をして動くだけではなく、感じて、考えて生きるということに意識を向けるということではないだろうか。何も考えないで歩いていたら、躓いてしまう。無機質な空間にずっといたら、考えることをやめてしまう。適切な刺激は生きる上で必要なのではないかと。
まだ、「22世紀の荒川修作+マドリン・ギンズ  ──天命反転する経験と身体 」は読み始めたばかりである。荒川修作とマドリン・ギンズが死なないためとはどういう意味だったのか。ヘレンケラーのためにとはどういう意味だったのか。
「極限で似るものの部屋」を思い出しながら読んでいきたい。

明後日な方向

夜にUTだけ照明をつけてみた。
スマホ魚眼レンズで遊んでみた1
スマホ魚眼レンズで遊んでみた2
ミッションの内容と魔法的

三鷹天命反転住宅のWebサイト


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