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七月雑記

手芸屋の入り口のワゴンに[ご自由にお持ち帰りください]と書かれていて、店の中を見たら[閉店セール]と書かれていた。

手芸に使う細々としたものが70%オフで売られていた。

壁一面にボタンを入れた箱が積まれていた。ハリー・ポッターの杖の店みたいだと思った。細長い紙箱で表側に見本のボタンが接着剤で貼られていた。

初めて入った店なので思い入れはないけれど、この店があったという思い出を残したくなって、何かひとつ買おうと眺めた。

シンプルなもの、キラキラしたもの、おばあちゃんの服に合いそうなもの、幼稚園児が喜びそうなもの、既成の服にこれが通る穴あるんかと思うくらい大きなもの、色々とあって、

家の形のもの、で目が留まった。

端から端まで眺めて、家の形のボタンのところまで戻った。かわいいボタン。色違いをひとつずつ買おうと決めて、ジェンガのように箱を抜き取り、レジまで持っていった。

レジにはおばちゃんとおじちゃんとおばあちゃんがいた。常連さんらしき人と喋っていて、しんみりした空気は全くなかった。おそらく大往生の閉店なのだろう。そうであってほしい。

これをひとつずつください、と袋から取り出そうとしたら、おばちゃんが「全部持ってっちゃう?もう閉店だし」と、値段はそのままで袋ごとくれた。

「あんた、この箱のも剥がしてあげて!」とおじちゃんに箱を渡した。見本のボタンをおじちゃんが剥がしてくれようとしたが取れなかった。じゃあ要らないです、というのも寂しいなと思って、じゃあ箱ごとください。ここを切り取って飾るので。と言ったら「流石、ここに来る人は上手いこと思いつくねぇ」と感心していた。

聞き間違いでなければ「うちにも飾ろうか」と話しているのが聞こえて、この店に思い入れのある人に思い出の残し方を見せることが出来てよかった。

店を出た。年配の方のやさしさを直に感じるのが久しぶりだった。また来たいなと思ったが、あと2時間で閉店だった。

今日が最後の日だった。思い入れが出来てしまった。


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夏の座椅子に片栗粉
付け襟姿のマンボウ隊
言ったそばから明けていく
八度っきりの草原で

ナイトセーバー春を切る
踵しか知らない正念場
網戸を振って紙を漕ぐ
のど飴に見えない後継者

星座の棒は折れやすい
輪ゴムに満たない夢の数
三と七は大丈夫
陶器でつくるほどのものか

午前4時頃、晩酌のあとにベッドで寝転んでいて、今の脳の状態は詩を書きやすそうだと意味の通らない言葉を出していたらメロディーが流れて、それに合うように意味の通らない言葉を出した。




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