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三月雑記

コロナウイルスが流行った。自体よりも存在が流行った。

街からマスクやトイレットペーパーや米が消えた。公演が無くなり客席が空っぽの劇場で、社員さんが事務室で色んな対応に追われていて、スタッフさんがこれを機にと部屋を大整理したりつかないペンを分けたりしていて、大楽屋で数人の芸人がネタ作りや今後の話をしていた。私はZAZYさんのフリップを貼る手伝いでいて、いつもは誰も通らない階段の隅っこでやっている作業を大楽屋の真ん中でやって、床に敷く古新聞の広さにがらんとした楽屋を感じた。風が強い日があった。小さな小さなところでひっそりライブが行われていたりした。芸人それぞれの配信が行われ、公演の配信も始まった。目覚ましをかけなくていい日が増えた。部屋の模様替えをした。


少し苦手な果物がセミドライで売っていて、パッケージがおいしそうだったので買って食べてみたら、一口目はやっぱり苦手で、二口目から「あれ?おいしいかも」となった。好きまではいかないけれどこの一袋は食べきれそうだと思った。

レシピを調べたら、生ハムと絡めたり豚肉と炒めたりといったものがあった。残りは豚肉と炒めて食べきった。普通に食べるよりおいしかった。普通に食べるよりもおいしいと感じているということは好きにはなれていないのか。

たとえ調理したものでも大好きな味だと感じられれば好きとみなしていいだろう。料理の経験を積まねば。桃栗三年柿八年。八年か。


今日は黒い眼鏡を買おうとZoffやJINSや高そうな眼鏡屋に行った。

丸いのか四角いのか太いのか細いのか周りがつけているようなものか周りと被らないようなものか、定まっておらず

☑︎黒いの

のみで行ったので、全然決まらなかった。店員さんから茶色をすすめられてかけてみたらまあまあ良くて、いよいよ黒でも無くなった。

試しにかけたあと、今かけている眼鏡に戻す。なじみすぎている。気に入りの眼鏡。褒められることの多い眼鏡。古くて同じものはもう売っていない眼鏡。長持ちさせるために別の眼鏡がほしい。

今度、眼鏡の人に相談しよう。周りに眼鏡の人が多い。


運のない奴のビンゴカードみたいに空きの多い日々なのに、楽しい予定が重なることがある。大喜利ライブの誘いを『大喜利ライブが入っている』という理由で泣く泣く断ったりする。

飲みの誘いをバイトで断るのが特にやりきれない。楽しい予定が楽しくない用事で潰れてしまう。

「飲みの誘いをバイトで断る日が無くなりますように。」

この願い方だと

・誘いとバイトが被らなくなる
・バイトをせずによくなる
・誘いがなくなる

が考えられる。

「バイトをせずによくなるように。は自分次第なので、運によるところが大きい『誘いとバイトが被らないように』というのを、ちょいとお願いします。」

酒の神様と芸の神様とバイトの神様、誰が一番話を聞いてくれそうか。バイトの神様を思い浮かべると芸の神様が浮かんでややこしい。


コロナウイルスが自体も流行りはじめた。

街から人が減った。一時、配信も無くなった。小さな小さなところのライブも無くなっていった。雪が積もったりした。定期的にやっていた好井さんのネタ作り手伝いが無くなったのがいよいよ寂しかった。家でひとりで出来る大喜利を探していくつか投稿した。風が強くても桜が散る心配をしなくなった。花屋で買った桜を部屋に飾った。


そもそも出ているライブが少なく生計はバイトで立てていて作家としての仕事のいくつかはLINEでのやり取りなので、生活への一番の影響は『見学するライブが減った』だった。

ライブがどんどん無くなっていくなかで最後に見学したのはアイロンヘッドのナポリさん主催の『無観客無配信ライブ』だった。とても面白かった。目に焼きつけた。肉巻きが美味しかった。


家にこもるために豚汁を作った。普段は鍋の素と白菜と肉という最低限鍋を作り、食べつつ別のご飯を挟みつつ、という暮らしをしているが、家で栄養のあるものを飽きずに食べるために、用事で少し外に出たときに「家に帰って食べたい」と思えるように、豚汁を作った。

スーパーで目にとまった根菜を入れたので、実家の豚汁とは味が違う。実家の豚汁にはさつまいもは入っていない。実家の豚汁を思い出そうとするとイナムドゥチが横入りしてくる。

イナムドゥチ。白味噌で具材がやたら細い味噌汁。給食で出てきたらちょっとはずれだなと思っていたけれど、たまに無性に食べたくなる。作ってもたぶんあの味には近づけられないだろうな。


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