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十月雑記 二〇二一年十月短歌


台風の冷気に太腿をさらして壁へ壁へと休日の脚

おめでたいことがあっての寿司なのか寿司があるからおめでたいのか

封印の杖の嘴なめらかに少女の心をつつく封印解除レリーズ

【写真で一言】に使われたあの子が今年大学受験だってさ

分銅を指で触っちゃいけません 理科室の国 指紋は銀河

モノボケのモノが並んだ長机 消毒液もモノの面して

侍が腰の刀に手を添えるように運ぶはチキン南蛮

照明の下で鉢巻に染み込む運動の汗または冷や汗

ひまわりは花言葉では語らずに夏を背負った姿で語る

百均で一番安いつまようじ爪先の解像度が低い

深夜二時 24時間営業のスーパーかいわれだけ死んでいる

客室のあちらこちらに # 大喜利の愛の手が触れた跡

歯茎麻酔今日の上左半分ぼわぼぼわぼわぼぼわぼぼわぼ

あの頃のようにしゃがんでガチャガチャをあの頃よりも静かに回す

光らないという選択肢もあるよマットコートのネイルと同じ



向きを変え忘れた靴をじっと見る 直す堅さのない和室にて

銅板のテーブルの凹凸を撫でる秒針がふちに腰かけている

靴紐を結ぼうとしたときにだけ見える花のような休肝日

放課後の教室の隅にイヤホンが繋がっている深夜のラジオ

足元にぴったりの植木鉢を描き育つ大きさを決めている

古着屋を歩く私の肩幅と歩幅が同じ服を連れ出す

雑談が風に吹き飛ばされているたぶん「風強い」って言ってる

白鳥が水面に線を引くように余白を分つチタンの鋏

少しずつ家電のレベル上げをするこの生き方でいいと思える

大喜利のお題が出て一秒後には過去の私が答えを囁く

伯母の白髪は染まらない活力をたたえるように輝いている

2021年10月地デジカは何も言わずに穏やかな顔

鬼ヶ島に行くのならばごまたまごイヌサルキジと鬼にもあげる

三人の相関図の矢印の色は六本とも同じ色だ

単語から話を発芽させようと記憶の土に埋める作業日



10/1 外は台風で、窓を開けられる程度の風雨だった。少し開けた窓から入ってくる台風の冷気を感じつつ、ベッドに寝て壁に脚を投げ出して、だらだらと過ごした。

10/2 キングオブコント前に仮眠をとり、放送40分前に目が覚め、なんだかそわそわしてしまい、そわそわの気持ちを何かに固定するべく、寿司を買いに行った。自分までも特別な存在だと思い上がってしまいそうなそわそわを寿司へと向けることに成功した。

10/3 ふいにカードキャプターさくらを思い出し、何か今の財力で買えるものはないかとグッズを調べた。封印の杖の嘴のような部分の丸みがたまらなかった。グッズは色々あったけれど、自分にとってサイズ感が丁度いいものがなかった。

10/4 ギリギリプリンスに出た。写真で一言に使われた写真の中の人たちは【写真で一言】に使われているなんて知らずに、下手したら大喜利というものすら知らずに暮らしているんだろうなと、ふと思い、自分の暮らしのどこかに居ることを想像した。

10/5 前々から欲しかった分銅を買った。自由に指で触ってやろうと企んでいたけれど、いざ目の前にしたらもったいなくて触れなかった。いずれ触る。理科室の中のみの様々な注意事項を守っていたときの気持ちが残っている。分銅に付いた指紋を想像する。銀河系みたいだ。

10/6 コーナーライブに出た。無観客なので出番を待つ芸人たちは客席で観ていた。舞台上にモノボケ用の小道具がたくさん乗った長机が運ばれてきて、その端に消毒用のアルコールスプレーが置いてあった。小道具のひとつのように見えた。猫がいる家で育った犬が猫のように振る舞う姿を思い出した。

10/7 惣菜のチキン南蛮を買った。右肩に提げた買い物用バッグの中身の一番上に置き、それでも不安なので、チキン南蛮に右手を添えて歩いた。この右腕の曲がり具合そろり具合が、侍が腰の刀に手を添える感じに似ているな、と思った。

10/8 コーナーライブに出た。私はスリッパ卓球で出た。本番前に打ち上げと壁打ちをして手首に感触を馴染ませて、これで大丈夫だと本番に望んだら、リハのとは違う立派なスリッパが用意されていた。確認するべきだった。全然上手く返せなかった。鉢巻を外したら重く感じて、これは冷や汗の重さだと思った。

10/9 花屋に行った。ひまわりに目が留まり、いつものガーベラ+ひまわりを買った。ひまわりはその姿が求められていて、ひまわりを花言葉先行で買う人はいないだろうなと思った。

10/10 百均でつまようじを買う際に、一本あたりの値段が一番安いものを選んだ。いざ使ってみたら、とがりが弱く、目視で先端に平面を確認出来た。掻き出しの爽快感が劣った。次はケチらずに買おう。次が来る頃には忘れてしまっていそうだ。

10/11 深夜2時に商店街を歩いた。この日は運動量が少なかったので多めに歩くことにした。普段の利用圏外にある24時間営業のスーパーのところまで歩いた。せっかくなので中に入った。深夜とは思えない充実の品揃えだった。いつかまた来るときのためにと売り場の感じを眺めていたら、野菜コーナーのかいわれだけ、売り物としての生気を失っていた。消費期限が切れているわけではなく、なんだろう、生気としか言い表せられないものがプツリと切れていた。復路で本来の目的であるジャンプを買った。

10/12 #ホテルカワシマ に行った。11/7までやっているし、いつか別の場所で開かれるかもしれないので詳細は伏せる。とても面白かった。空間のお題に立体的な答えが満載だった。真摯で丁寧だった。いつかあんな大喜利をやってみたい。

10/13 見て見ぬ振りをしてもはや見慣れた前歯の虫歯を治した。久々に歯を削られる痛みを感じた。小さな丸い穴が綺麗に埋まってつるつるになった。歯茎麻酔で顔の上左半分の感覚がぼわぼわになった。この感覚も久しぶり。

10/14 近所のガチャガチャの場所に行った。ここのガチャガチャは仕入れを決めている人のセンスに太鼓判を捺し褒章を付け拍手を浴びせたいほどに粋なラインナップとなっている。今回は『配線の世界3』のガチャガチャを回した。一番欲しかったアイロンは出ず。でも楽しい。子供の頃からガチャガチャが好きだ。

10/15 近所のドラッグストアにネイルコーナーが出来て、小さな色とりどりの小瓶がずらっと並んでいる様を見てついオレンジ色のを買ったのが最近のことで、今日はマットコートを買った。爪にベースコートを塗りオレンジ色を塗りマットコートを塗った。栗きんとんみたいになった。

10/16 

10/17 先輩のネタ作り手伝いで本社へ。初めてわびさび室に入った。畳の部屋。和室と独房が混ざったような感じ。寝転がった。実家を思い出すかなと思ったけれど匂いが違った。実家、親戚の家、友達の家、児童館、学校、図書館の絵本のところ、棄てられた畳、沖縄そば屋、和食屋、旅館、家具屋、バイト先の土産屋、畳屋、バイト先の寿司屋、楽屋、先輩の家、区の施設の和室、靴を脱いで上がれる展示…今までの生活の色んな場所にあった畳は全てそれぞれ匂いが違った。いつか自分の部屋に畳を置きたい。小さな和室が別にあると良い。自分の暮らしの部屋が増える光景をどうぶつの森の感じでしか想像できない。

10/18 同期のネタ作り手伝いで珈琲タイムスへ。テーブルが銅板で植物が描かれていて、摩耗したところどころの色が変わっていた。どこに手をついてどこに物を置いて削れていったんだろうと想像したけれど、削れが不規則で像が浮かび上がって来ず、それだけ長い年月、多くの人々が思い思いに過ごして過ぎていったんだろうと想像できた。銅板の小さなテーブルを買って家に置きたいと思ったけれど、新品を買って生きている間にあの味が出そうに無いし、かと言ってアンティークはそれはそれで違う良さの物だ。持つところに細かい装飾のある銅のスプーンなら私の残りの人生でも味を出せそうだぞと調べたら、最近の銅のスプーンの持つところはどれもつるりとしていた。

10/19 夕飯のときに飲んだり寝酒を入れたりと少量ではあるけれど毎日飲んでいて、頭も体も疲れたので寝酒無しで眠れたのが一昨日、せっかくだから今日も飲まないでみるかが昨日、そして今日もなんとなく飲まなかった。三日断酒。たまたま訪れた休肝日。このような飲み方をしてこのような断ち方になる人がみんな感じているであろう「酒ってやっぱ毒なんだな」という体調の良さと「でもやっぱ飲みたいな」という沸々を私も感じている。寒くて炭酸を飲む気にならないし熱燗よりココアの寒さなので、次に飲むのは、最高の気配のするおつまみに一目惚れするか、無理やり眠りたい夜になるか、なんとなくでか。

10/20 『あさイチ』にVTRで出た。浅井アナがメガネびいきに送るにあたって、ラジオ投稿の大喜利のコツのようなものを教える、という内容。放送ではコツの見出しとその説明を口頭で、となっていたけれど、現場ではホワイトボードに色々書いて講義みたいにお届けしていた。浅井アナの学ぶ姿勢に引き出されて、秘密にしておきたい大喜利の体温の部分も明かしてしまったなと思っていたので、そこが放送に乗らなかったのは少しほっとした。ラジオへの熱に触れることが出来てよかった。撮影現場に『ケータイ大喜利』に携わっていた方がいて、感慨深かった。

10/21 台所の窓際に置いて育てている観葉植物の鉢を少し大きいものに替えた。鉢の大きさで育つ大きさを調整している。根詰まりしない程度にゆっくりと育てている。テレビはたまにくらいが嬉しい、大喜利で食えるようになりたいので芸人として作家として色んな大喜利の仕事をしたい、という鉢を自分の足元に置いている。自分が好きなサイズの自分でいたい。ここ最近はバイトをせずに生活出来ているけれど、贅沢できるほどではなく貯金が無いと危うかった月もあるので、まだ食えている段階ではない。

10/22 古着屋haikaraに行った。店のインスタで「これはどうしても欲しい…!」というのが上がったときに行っている。初めて行ったのは約2年前、霜降銀座店。店員さんに「赤嶺総理ですよね…?」と話しかけられてかなり驚いた。レジ打ちの間に少し話した。キンボシさんのファンとのことだった。より店への信頼度が高まった。今日行ったのは野方店。目当ての服を手に入れることが出来た。名付けるなら『おいもニット』。さつまいものような色とさつまいものような編み込み。これでしばらくは服を買わないかなと思ったけれど、グラニフのシマエナガのスウェットに惹かれている。

10/23 天気が良くて風が強かった。商店街を歩いた。自然と胸を張って歩きたくなる風で清々しかった。スーパーで惣菜を買った。老夫婦が楽しそうに穏やかに惣菜を選んでいた。アイドルのキラキラしたところだけを見て憧れるように、老夫婦の仲睦まじいところだけを見て憧れている。

10/24 フリップを作った。スマホにメモしていたものをパソコンのPhotoshopで打って印刷してB2サイズの紙に切り貼りする作業。目に見えて進んでいるとわかる作業は安心する。最近はさみを百均のものから文具屋のものに変えた。チタンのはさみ。前のものより刃長は短いが切れ味が段違いで、作業がより楽しくなった。もっと良いはさみもあるだろうけれど切れ味が良すぎても怪我の恐れがあるので、今のところはこれが丁度いい。

10/25 LEDシーリングランプが届いた。ベッドに入ってから電気を消すために紐を延ばしてやりくりしていたけれど、ついにリモコン式になった。調光調色も出来て天井を照らす間接照明モードもある。説明書にアッパーライト機能と書いてあった。比べると「間接照明モード」という呼び方はダサいな。私の頭の中にある単語を組み合わせるとこれが限界だ。本体が重くて設置がとにかく大変だった。だからこその達成感があった。

10/26 ネタとコーナーのライブに出た。コーナーでやった大喜利の仕組みが、詳細は省くけれど、大喜利の勘があっても無くてもある程度の面白さが約束されていて、安心だし冒険も出来るというもので良かった。私は過去の自分の答えを超えられなかった。それでも普段の大喜利とは違う脳の動かし方を出来て面白かったし楽しかった。

10/27 伯母がガラケーからスマホに替えて、セキュリティーなどの設定の仕方がわからないとのことで、教えるがてらご飯で久々に会った。伯母は相変わらず歩くのがはやく、話す声に芯があり、頼もしさがあった。台湾料理の店に行った。自炊では使わない野菜・出来ない味付けで良かった。おいしかった。食後に喫茶店で珈琲を飲みながらスマホの諸々を教えた。私がお金に困らず生活出来ているかの話になった。
「家賃とか光熱費とか毎月払えてる?」「うん」「ここいいな〜って喫茶店があったら、ふらっと入ったりしてる?」「うん」「ケーキも頼んでる?」「うん。頼んでるけど、何食べたいかのときに値段も目に入る」「なるほど」
ちょうどいい生活を送っている感じが伝わったようだった。

10/28 急に地デジカのグッズが欲しくなり、メルカリで探して買ったものが届いた。トートバッグとストラップ。2011年には気づけなかった可愛さ。懐かしさが付与された今だからこそ感じる可愛さなのかもしれない。メルカリを使うようになる前は、チケット転売屋の巣窟で悪だと思っていたけれど、定価をはるかに超える値をつける悪い使い方をしているのは一部の人で、誰かにとっていらなくなった物が誰かにとってほしい物、それを良心的な値段で受け渡し出来る、押し入れのどこでもドアのようなものだった。

10/29 先輩のネタ作り手伝いで本社へ。お茶うけ的なお菓子好きなの買ってきて、とのLINEをいただいたので、小田急新宿デパ地下のグルメエリアをさっと周ったけれど目移りして定まらず、駅を出るところにあるコンビニでごまたまごを買った。初めて買ったのはいつだったか思い出せないけれど、初めて食べたときの衝撃は覚えている。お土産お菓子でこのクオリティー…!という感動は今も続いていて、新宿で用事があった帰りにごまの甘味を欲していたら買っている。先輩とごまたまごを食べた。美味しいねと驚いていた。美味しいものは共有するとより美味しい。

10/30 楽屋でラジオ収録の準備をしているドンデコルテがいたので、いつものように写真を撮らせてもらおうと声をかけたら「出る?」と言われたので、出た。何を話すか何も決めずに始まった。ただただ楽しく喋った。お喋りとがっつりトークの間の感じで、話の呼吸を合わせる感覚が私にとっては新鮮だった。

10/31 自分の宿題をする一日だった。単語から文にする作業であり、その宿題用に頭の中に作っている空間に住んでいる色んなキャラの生活を覗いてお話を書き留める楽しい時間でもある。


※短歌は、その日あったことを詠んだり、その日の単語から膨らませて詠んだりしました。
※10/16の短歌はこちらに入っています。

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