ボクが生まれたせいで、大好きな父と離れて暮すようになった兄との話(実話かつハッピーエンドな話ですぜい!)

今日誕生日なんです。喜びを感じるどころか老いて行くのが嫌になるけど、ここ1年で一番嬉しかったことを記録しようかと・・・

昔からフォローしていただいている方は薄ら気づいているのかなーと思うけど、ボクの兄は精神障害者であり永遠の2歳児なんです。そろそろ50歳になるというのに。ボクとは7つ歳が離れている。母親は違うけど兄弟とわかるほど似ているのだ。

幼い頃、兄とボクとはすこぶる仲が良かったらしい。御煎餅の袋すら空けられない兄の面倒をみたり、いじめっ子を棒で追い払ったり(おむつ一丁で)。ただ、物心ついたときには兄は施設で生活するようになっていた。頭は2歳児でも身体は大きく、寝ているボクを踏みつけそうになったり、力一杯抱きしめたりと、ボクの身に危険が及ぶようになったから、父も泣く泣く施設へ送ったそうだ。

それからは、年に数回の面会と一時帰宅で会う関係。ギャーギャー騒ぐ兄と、電車の中とか、一緒にいると回りからは白い目で見られるわけで、まー正直嫌だった。この辺のお話は割愛します。長くなるので。

社会人になってから、なんだかんだで面会にも行かなくなった。そんなある日、老いてきた父が「たまには来てくれ、オレが死んだら施設との手続きとかできなくなるだろう?」と言うので付いて行った。そういえば、前に会ったのいつだろう?10年?いや15年?月日が経つのは早いもんだ、兄は元気かなー、ボクが行くと喜んでくれるんだろう。感動の再会?そんな軽い思いだった。

でも、それは思い上がりだった。無視されたのだ。身内に、仲良いと思っていた兄弟に無視されるのは辛かった。しかも、兄には悪気はない。2歳児の知能、とても素直な知能に「この人は関係ない人」と判断されたのだ。かなりのダメージ。

会社辞めてフリーランスになって、年に数回の面談には行くようにした。最近では施設に併設されているゲストルームに父と3人で宿泊するようになった。父は老いぼれる一方なので、なーんにも世話しない。「疲れた」と言ってずっと寝ている。兄は父に構ってもらえず何もすることもなく暇そうにしているけど、側を離れようとはしない。

まーボクも、お気軽で気ままなペンギンタイプなので、無視されようがなにされようが、昔みたいに適当に話しかけて遊び相手にした(もちろん会話にはならない)。そんな感じで4年が過ぎた。段々と話はするようになったが(しつこいようだが会話にはならない笑)、相変わらず父の側は離れない。

でも先月少し状況が変わった。兄は昼ご飯の弁当を今までにないほど豪快にこぼして、しかも口にいっぱい詰め込んだ食べ物を辺り一面に吹き出した。「あーあ、またやっちまったよー」ボーッと見ているだけの父をよそに、いつものように全部拭いてあげて部屋も掃除した。

その時の兄は、ものすごく申し訳なさそうな目をしていた。珍しく。「なんだろな」と思いつつも洗い物をするために台所に行った。

すると・・・

付いてきたのだ。でも台所には入ろうとせずにウロウロしている。なぜか笑ってしまい「こっち来なよ」と言うと入ってきて、洗い物をするボクの横に座ってズッとボクを見ている。椅子でも出してあげるかと思ったけど、パンツが汚れていることを知っているので、それはスルー。とりあえず「はい、じゃこれをお父さんに持ってきて」と適当にキッチンペーパーを渡すと嬉しいそうに持って行った。そして、また戻ってきて座っていた。

昔、よくこんなことしてたなー、と、思い出した。兄は自分では何もできない割にはお手伝いが好きなのだ。

帰宅の時間になった。兄を施設へ戻し、役所の手続きなどを施設職員と話していたのだが、兄はまだウロウロしている。「あーお父さんがまだいるからか」と思っていた。いつも父が帰るまではウロウロしているのが常だし。

父は身体が疲れるから、必ず近隣のホテルにもう1泊してから朝帰る。たいてい父がホテルに行く方が先だ。だから知っている。父がいなくなると自分の部屋にすぐ戻っていくのだ。この日もそう。父は送迎に来てくれた馴染みのマスターとさっさとホテルへと去って行った。

でも、まだ兄はいた。なぜ?

港まで送ってくれる職員が気を遣ってくれて「弟さんと一緒にドライブしようか?」と声をかけてくれた。

車に乗ってきた。

兄は永遠の2歳児だ。職員に見せる満面の笑顔を見た時は天使だと思った。おじさんの笑顔が美しいと思ったことはこれまでない。その瞬間を捉えた写真を父に見せたら「あいつは、こんなに笑うのか・・・」と、ぼそっとつぶやいていた。

兄を担当してくれる職員さんと話したときに言っていた。
「私が担当した当初は見向きもされなかったですね(笑)。でも、支援(世話)させていただくうちに、どんどん絡んでもらえるようになって。お兄さんの場合、警戒心が人一倍強いんですかね」と。

ボクは精神障害者の弟として白い目でみられることが常だったから、正直兄の存在を恨んだときもあったし、「周囲の目」が恐怖でしかなかった。人への警戒心は強い方だ。でも、兄は兄でこれまでの人生の中で警戒心が強くなることを体験している。それが何かはわからないけど。10歳から大好きな父と離れて一人で施設暮らしなのだ。ボクなんかよりも相当な苦悩に耐えてここまで生きてきたと思う。

いつになれば、天使の笑顔がボクに向けられるようになるかわからない。一生ないかもしれない。でもそれでいいのだ。兄は、兄が本当に笑顔を見せたい人に笑顔を見せればいい。兄弟だからといって気を遣って笑うことができないからこそ、本当の笑顔がそこにあるのだ。

何もできないけど心が綺麗なままの兄と、何かしらできるけど心が汚れていくボク。二人揃ってやっと一人前なのかな。

また、会いに、行くぜい。兄よ。

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