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20220709 somnia

 夢を見た。

 大雨だった。
 私は、30人くらいの同年代の人たちと、なにやら合宿所のようなコテージのようなところに集められていた。前に立っていた人が言う。
「今から班分けをするから、6列くらいに並んで、5人ずつくらいに分かれて」
 くじ引きなどで決めるでもなく、流れに身を任せて適当な列に座った。
 思い出した。これは建築設計のセミナーか何かで、合宿をしていたのだ。
 合宿所に持ち込んだのは数日分の着替えと、製図セット。建築士試験に使うような製図板と、その他諸々の必要な道具一式を持ってきていた。
 別れたグループでおよそ3日間。プランの構想から手書き製図に至るまで完成させることが、このセミナーの目的だった。
 まずは、課題を発表する前にグループでの自己紹介等があるからと、その場は解散した。
 皆がぞろぞろ歩き始めていると、同じグループに会社の同期の男の子がいるのが見えた。名を仮に大森コウとする。
「コウ君やん。同じ班?」
「せやな。こえさんはどうするん」
「私、プランニングとか嫌やで。製図専門。時間はかかるけど、綺麗な線書くのは得意」
 夢の中ではずいぶんと、自分のことを高く評価してるのだなと我ながら思いつつ。
「やったら、製図道具はどこなん」
「……えぇ?」
 確かにそうだ。
 周りの人を見回すと、皆一様に製図道具を手元に持ってきていた。私は何も持っていない。
「他のグループの人らとおって。私、製図道具取りに行くから」
 この合宿所は建物が3棟ある。設計製図を行おうとしている棟は中くらいの規模で、少し山の上に立っている。その隣に立っている一番小さな棟は荷物置き場で、恐らくそこに製図道具があるだろう。山から階段を伝って少し降りたところに、一番大きなコテージがある。そこが実際に寝泊まりする棟だ。
 荷物置き場の建物に入る。荷物を取りに来た人たちがあちらこちらを歩いているが、そんなことよりも湿気がひどい。
 自分の荷物がどこにあるのか見当もつかなかった。
 そこへ、見慣れた人が現れた。同じ会社の、総務部の男の子だ。確か同い年の。
 自分の会社も絡んだ合宿だったかな、と首を傾げつつ、彼に声を掛けた。仮に、小坂さんとする。
「小坂さん」
「こえさん。どないしました?」
「製図道具が無いんです。探したいんですけど、どこにあるのか分からなくて」
「オッケーです。探しましょう」
 ここからは、現実の小坂さんに非常に申し訳ないのだけれど。
 こっちこっち、と促されるままに、小坂さんに肩を掴まれて進まされた。ほぼ後ろから抱きつかれているような状況だった。こんなにフレンドリーで距離が近かったかなぁ、と思いながらも、ひとまず目的のものを探す。
 荷物の間を進んでいくと、見慣れた鞄が目についた。拙く汚い字で、私の名前が書かれてあるではないか。
「見つかりました! 小坂さん、ありがとうございます」
「いや、いいんすよ。見つかって良かったですね」
 そこで小坂さんとは別れて、荷物置き場を出る。外は暗く、雨がしとしとと降っていた。
 ふと、寝泊まりする一番大きなコテージに行かなければいけない気がした。何かを忘れたわけではないけれど、そこへ行かなければ。
 濡れて少し滑りやすくなった山道の階段を降りていく。コテージが見えてきた。
 コテージは山の低い場所に立っており、その背後をぐるっと回るように道路が走っている。道路の中程で、コテージに向かって降りる幅の広い階段と、研修を行う建物に向かう上りの階段とが分かれて配置している。
 一度道路まで階段を降りて、軽く方向転換しながらコテージに向かって幅広の階段を降りていった。
 途中で気になったのは、幅広の階段のど真ん中に、女性が一人立っていた。焦茶色のさらさらとストレートのロングヘア。赤いピタッとしたトップスと黒いパンツを履いて、そのほかに何も持たずに階段の中程に立ち、目線の高さの道路を見つめている。
 参加者かな、何をしてるのかな、と思いながら通り過ぎてコテージに入った。
 研修を行う建物に戻ろうと、すぐにコテージを出た。幅広の階段をトントンと上っていくと、まだ女性はいた。
 通り過ぎた頃にふと女性を振り返ると、道路を猛スピードで走ってきた軽トラが階段へ侵入し、彼女を押し倒したのが見えた。
 何も思わなかった。押し倒されたのだと思うけれど、実は違うような気がしたからだ。
 そのまま建物に戻ると、周りはざわざわしていた。ネットニュースを見ている。
 この合宿所で、事故が起きたというものだ。
 先ほどの女性は、やはり轢かれてしまったのだなとその時確信した。

 目が覚めた。

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