聞いた話

「深夜にな、たまに大きな音が響くんだよ」
そう話し始めた知人は、しかし何度も言い淀むような姿を見せたが、私の懇願が効いたのか話を始めてくれた。

ほら俺、住宅街からは離れたところに住んでるだろ?もう普通に繁華街、しかも端とはいえ23区内だ。
だからさ、まあ騒音なんてのはいつもの事なんだよ。だから…何度も言うけど俺の気のせいかも知れん。
それでさ、繁華街と言っても夜の3時を回ると一時的に静かになるんだよ。夜中まで飲んで帰る奴らは2時には帰り出すし、それより後までいる奴らは大抵日が昇るまで飲んで帰る、つまり3時って言うのは1番人が少ないんだ。
その音が聞こえるのはだいたいそんな時間のことで、年に…3回から5回くらい聞こえてくるんだ。
その音がさ、なんかこう…仏壇で鳴らす鐘の音…(ここで筆者が「“おりん”のこと?」と返す)、そうそれ!おりんって言うのか、それの音にそっくりなんだよな。
それが、これも伝わりづらいんだろうけど…空気の上の方?でするんだよな。こう、空から響くという感じではなく、一定の高さより上でしか聞こえませんよ、みたいな。
ほらな?よくわかんないだろ。だからあんま人に話さないんだよ。
いつ鳴ったか?うーん…あ、前回の時はツイートしてたな、検索すれば…ほら、これだ、3月20日の3時40分。

「本当にそれだけの話なんだよ」

と彼が話し終えた。

「いや、参考になったよ、ありがとうね」

私がそう相槌をうち、日付に関して考えを巡らせる。
そしてふと気付く。

「そういえば、君、たしか3月末に流行病で出勤停止になってなかった?」

「ああ、お前にタイミング的に逆に運が良かったのかもなって笑われたのをよく覚えてるよ」

「あはは…」

さて、彼との話をここに書いたが、この話にはまだ続きがある。
と言うより、“私はこの話を知っている”と言うのが正しいだろう。そう、別の人物からも似たような話を蒐集済みなのだ。

(つづく)

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