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知らぬが

それが今日だと知っていたら

ケンカなんかしなかったし

もっと優しくしたのに

きっと誰でもそう思う

でも、それはずっと先のことだと思っていたり

そんなことは起きないと思っているから

まあ、明日何があると分かって生きられるほど強くはないし、予定調和じゃ面白くもないかもしれない

明日を未来を無邪気に無条件に信じられるから、惰眠を貪り、今日を明日に延ばす。

でもその時は抜き足差し足忍び足で、誰にも気づかれないで、私たちの背後までやってくる。ビックリ!青天の霹靂!と叫んでも時既に遅し。賽は投げられた。もう私のターンは始まってしまっているから。

苛烈な運命の渦に巻き込まれて、日常は一瞬にして暗転、一寸先は世界は闇だと痛感する。光の世界にはもう戻れない。なくした日常は遙か向こう。戻りたければそこまでひとり這うように進むしかない。

今日、日中の支援中、おひとり体調不良を訴える方。救急車を依頼しご家族にバトンを渡すまで搬送先まで付き添う。反転する立場。ほんの数ヶ月前ストレッチャーに横たわった自分を思い出しながら。因果というか、私はこの仕事をするのことに、何か役割があるみたいだと、だから助かったんかなとグルグル形ない思いが巡る。

いや、ひとりじゃなかった。私の時にだって、駆けつけて深夜まで治療の間ずっとICU扉前で待っていてくれた両親や妹夫婦。無事を祈ってくれた同僚や、利用者さん、ご家族、友人。光の方へ呼んでくれたひとは確かにいた。

早く、戻ってきてくださいね。みんな待っています。仕事はとっておきますよ。Sさん、仕事お好きですからね。なんなら、病気見舞いでベッドまでお届けしますよ。

え?コロナで面会できない?

困りましたね。じゃあ鳩に窓辺まで運んでもらいましょうか。アナログなら抜け穴ありそうです。ついでに糸電話も。え?携帯はある?そうでしたね笑

当たり前のことが当たり前のように終わる一日はなんと当たり前ではないのかと、幾度となく教えてもらったのに、なんて私は忘れっぽい。救急隊が駆けつけて室内は一瞬にしてエマージェンシー色に。穏やか日常は軽く蹴散らされて、みなさんの表情は硬直息を呑む。

ベニヤ板のような日常の薄さに改めてオノノクけれど、ここが私たちの持ち場なんだ。


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