”表現しない”自由。

色んなアーティストのライブに行くたびに、“界隈ごとの文化”も多種多様だなと気づかされます。ファンの人たちのドレスコードや、ライブ中の盛り上がり方、ペンライトやうちわは持っているのか…など。
なかでも、「セットリストのネタバレ」OKか否かについて、公式にアナウンスがあるか無いかはかなり大きな違いかなと感じます。ツアーなど、複数回ライブがある場合だと、最初のほうの公演を見た人がセットリスト込みで感想をSNSなどに投稿してしまうと、後半の公演に行く人が内容を知ってしまい、楽しみが半減してしまいますよね。あらゆる情報をSNSで収集することが当たり前となった今や、「嫌なら見ない」といった言い分だけが通用しきるものでもないので、発信する側からも気遣いましょうねという意図があるんだろうと思っています。
自分もよく、音楽ライブやお笑いライブに行くのですが、「ネタバレ禁止」はよく言われます。その度に、ライブが終わった直後はセットリストを出さなくても言える感想だけを投稿したり、曲名やネタ名を出さないといけない感想はメモしておいて、ツアーの全日程が終わったら投稿したりして、自分なりにストレスフリーに過ごせるようにしてきました。
先日もとあるライブに行ってきました。もう長いこと「ネタバレ禁止」が徹底されているアーティストで、今後も何回か続くツアーの最初の公演だったので、自分もセットリストを言わなくても伝わる感想を投稿していました。
ただ、公演終了後に公式から「どんなことを書いてもいいですよ」という旨のアナウンスがありました。「セットリストを公開しても良い」とまでは明示されていませんでしたが、Twitterの公式アカウントが、楽曲名まで分かるようなライブ中の写真を投稿していたり、朝の情報番組でライブ中の様子を放映したり。これまで「ネタバレ禁止」と言われてきた中で、色々オープンに発信していこうという真逆の方針。自分の周りのフォロワーさんの中にも、セットリストのネタバレ込みでの感想を投稿し始める人、これまでと変わらずネタバレは控える人、何も言えず戸惑う人…などなど。人それぞれという様相を呈していました。
実際のところ、ネタバレ込みの感想も多く見かけました。もしかすると、これまで見かけてこなかった反動で目につきやすかっただけかもしれませんが。それまで堰き止められていたダムが一斉に放水を始めた時のように、様々な人の想いの丈が溢れ出します。楽曲名や、詳細な演出も含めて。
そんな光景を見て、正直結構ビックリしていました。

それほど、ネタバレ込みで感想を話したくなっていない自分に。

個人的には、長年「ネタバレ禁止」と言われる中で、いかに楽曲や演出の詳細を伏せたうえで、いかにそのライブが素晴らしかったかを表現できたら良いな、と思いながら感想を投稿していました。特定の楽曲に絞らずとも、ライブ全体を通しての空気感とか、他にもMC部分はそのまま投稿してもOKの風潮があったので、その内容とか、それを聞いて自分が思ったこととか。
そして、共感の声を頂けたときは嬉しさというか、ある種の達成感みたいなものもありました。”言葉が少なかったけど伝えられたぜ!”なんて思えて。
だから、今回公式から言われたことを踏まえて、ネタバレ「したい」か「したくない」かと問われると、(あくまで自分個人がどうかという前置きをしつつ)「ネタバレしない方が楽しいので、しなくても大丈夫です」というのが答えになります。「ネタバレ禁止」の制約を逆手にとって“楽しんでいる”ので、もともとそこまで不自由していなかったんです。そのスタンスはネタバレOKの他アーティストのライブに行っても同様で、楽曲込みの感想はツアーの全日程が終わってからでもいいかな、と思いつつ、いかに詳細を伏せたうえで伝えられるか、に挑んでいました。
あとは、個人的には“言葉で表現されないうちが華”かもしれない…という考えもあります。どんなに素敵な演出も、楽曲名とともに詳細を言い表してしまうと、途端に俗っぽくなる気がしていて。過去のライブでの演出などと照らし合わせて詳細を掘り下げて考えていく楽しさもありますが、ツアーの全公演が終わるまでは自分の胸の内に秘めておくのでも良いのかなと。せめてツアー中ぐらいは“なんかうまく言えないけど、とりあえず素敵な演出で心に刺さったんだよな…”ぐらいの曖昧な感想に留めておける余白があってもいいのかなと思います。

色々と御託を並べてきましたが、「ネタバレ禁止」から「何を言ってもいい」という方針に舵を切ったのは公式なのは事実ですし、従来のスタンスを貫き続けることが望まれない側面もあると思っています。我々みたいな観客の生の感想を見て“その曲が観れるならライブに行ってみよう”と思ってくれる人もいるでしょうし、その効果を狙って「何を言ってもいい」方針に切り替えたのだとも思うし。
ただ、やっぱり今はまだ「切り替え期間」だとも思うので、自分は従来のスタンスでいようかな、決して無理はしていなくてむしろ楽しくやっています、というのが結論です。

「表現の自由」があるなら、「表現しない自由」もあるのかも…。
なんだか、そんなことを言ってみたくなった今日この頃です。


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