Book Cover Challenge (6, ?日目)

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#BookCoverChallenge Day 6 (2020/09/30)

サン=テグジュペリ『人間の土地』(堀口大學訳)
(Antoine de Saint-Exupéry "Terre des hommes")

 ぼくら人間について、大地が、万巻の書より多くを教える。理由は、大地が人間に抵抗するがためだ。人間というのは、障害物に対して戦う場合に、はじめて実力を発揮するものなのだ。もっとも障害物を征服するには、人間に、道具が必要だ。人間には、鉋が必要だったり、鋤が必要だったりする。農夫は、耕作しているあいだに、いつかすこしずつ自然の秘密を探っている結果になるのだが、こうして引き出したものであればこそ、はじめてその真実その本然が、世界共通のものたりうるわけだ。これと同じように、定期航空の道具、飛行機が、人間を昔からのあらゆる未解決問題の解決に参加させる結果になる。
〔…〕
 努めなければならないのは、自分を完成することだ。試みなければならないのは、山野のあいだに、ぽつりぽつりと光っているあのともしびたちと、心を通じあうことだ。
 さて、ぼくらを救ってくれたきみ、リビアの遊牧民よ、きみは永久にぼくの記憶から消え去ってしまうだろう。ぼくには、きみの顔がどうしても思い出せなくなる。きみは〈人間〉だ、だからきみは、同時にあらゆる人間の顔をして、ぼくに現われる。きみは一度も、ぼくらの顔をしげしげと見つめはしなかった、そのくせきみは、ぼくらを見知ってくれた。きみは愛すべき同胞だ。だからぼくの順番にぼくは、きみを、あらゆる人間の中に見知ろうと思う。
 ぼくの目に、きみは気高さと親切に満ちあふれて映る、水を与える力をもった王者よ、あらゆるぼくの友が、あらゆるぼくの敵が、きみを通ってぼくの方へ向ってくる、ためにぼくには、もはや一人の敵もこの世界に存在しなくなる。
 この書中、ぼくは、否みがたい天稟に従って、たとえば、他の人々が僧院を選ぶように、砂漠や航空路を選んだ人々について語ってきた。だがぼくは、自分の目的を裏切ったわけだ、もしぼくが諸君に、まずあれらの人々を賞讃したまえとすすめているように見えるとしたら。最初にまず賞讃すべきは、じつに彼らを作りあげた土地なのだ。

無題

#BookCoverChallenge Day ?

ミヒャエル・エンデ『はてしない物語』(宮田晃碩)

 父が本を買ってくれた。それは珍しいことだった。本はたいてい図書館から借りてくるものだったし、父が選ぶということもほとんどなかったから。新聞の書評か広告で、装丁が面白いというので、目に留まったらしかった。

 あかがね色の布張りの表紙に凹凸がついていて、二匹の蛇が互いの尾を嚙んで輪を成した図が浮かび上がる。「アウリン」の文様をあしらっているのだ。本を傾けると、明るいところと暗いところが反転する。

 彼はすぐに夢中になった。分厚さは気にならない。長い物語を読むことには慣れている。

 しかし初めは、冴えないバスチアンの物語に退屈したのだった。この物語は、バスチアン少年が『はてしない物語』という本を盗み出してきて、隠れてそれに読みふける、という構成になっている。バスチアンの物語は赤茶色の文字で、バスチアンが読んでいる『はてしない物語』は緑色の文字で綴られる。彼が好きなのは、その緑色で書かれた、アトレーユの物語だった。使命を託され、勇気に満ちて、ファンタージエンを冒険する。その続きが気になって仕方がない。それと対照的に、バスチアンはいじめられっ子で、ただアトレーユの物語に心躍らせているだけだ。物語の読者は自分なのだから、バスチアンのことになど構っていられない、そう彼は思った。

 それでも彼は、ときどきバスチアンと心をともにするのだった。バスチアンは学校の物置で『はてしない物語』を呼んでいる。その物置にはいろいろなものがあって、なかには体操で使う「馬」もあった。バスチアンは馬に乗って、本当の馬を駆るアトレーユの物語を読んでいる。バスチアンの物語を読む彼の頭のなかには、ちょうどそのときピアノで習っていた、朗らかで勇壮な練習曲が流れる。それはいかにも、草原を馬で駆け抜ける音楽ではないか! アレグレットの余裕をもった二拍子から、アレグロの三拍子へ。トロットが優雅なギャロップへ変わる。

 やがてバスチアンは、ファンタージエンを救うために『はてしない物語』の世界に飛び込む。後半はバスチアンが自分を見失いながら、また取り戻す物語だ。それにアトレーユも同道する。

 「外に出られないのは、心の底で自分がそれを望んでいないからだよ」と、アトレーユがバスチアンに言う。

 読み終わるのが惜しいと、彼は思う。あるいは自分も『はてしない物語』のなかに入っていけたら!

 そのとき彼は気が付くのだった。ひょっとして自分はもう物語の住人で、誰かが僕の物語を読んでいるのではないか――。

 彼の物語がいつから私の人生になっていたのだろうと、私には不思議に思われるのである。

(おわり)

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