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愛していると言ってくれ⑨

幼稚園
周りの子たちは伸びた髪を
お下げや三つ編みやポニーテールにし
母親が結んで
可愛いリボンをつけた子もいた

内心「いいな、可愛いな」と
思いながらもメイは
自分には関係ないことだと言い聞かせていた

いつも機嫌が悪い母に
髪を結って欲しいとは
口が裂けても言えない

伸びっぱなしでボサボサの髪を
メイは自分でなんとかしようとした
それでもやはり
幼稚園児の手では限界がある

ある時
迷いながらもメイは母に言った
「髪を結って欲しい」と

リボンなんていらない
ただ結いてさてくれれば

淡い期待を込めて
精一杯の勇気を振り絞って言ったメイに
母は

「自分で結べない髪なんか切っちまえ」

その場にあった裁ち鋏で
メイの背中まで伸びた髪をばっさりと
切り落とした

「あっ」

泣きたかったんだろうか
ただただ
あまりのショックに言葉を失った

でも泣いたらダメ
泣いたら叩かれる
メイはそれだけは必死に堪えた

「ひどいよ、お母さん」

本当はそう言いたかったのだろうか?

母は何もなかったように
背中を向けて寝ている

メイは仕方なくその頭のままで
お迎えのバス乗り場に一人で向かった

みな一瞬メイの頭を見るが何も言わない

三つ編やポニーテールの中に
一人だけ散切り頭の自分

惨めという気持ちではない

あまりに周りと違いすぎて
幼稚園児のメイは
ひどく混乱していた

幼稚園のトイレで鏡を見た

映った自分のひどい頭
メイの頬に涙がつたう

何の涙だったのか
メイ自身にもわからない

そしてそれを誰も知らない



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