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愛していると言ってくれ⑥

幼稚園に通うまで
歯医者に行ったことがなかった
歯磨きということも知らなかった

園の検診で虫歯だらけの歯を治すような内容の
通知があったのだろう
母の機嫌はいつも悪いが
その日は増して酷かった

何をされるのかわからないまま
手を引っ張られて連れて行かれた歯医者は
今とはまるで違う
暗くて怖い空間だった

何をされるかわからない
冷たい椅子に座らされ
口を開けると
想像以上の痛さに堪え切れず
私はバタバタと暴れた

歯医者の先生は言った
「お母さん、もう少しよく言い聞かせてからきてください」
そのまままた手を引っ張られて帰る

帰った途端
平手打ちと蹴りが飛んできた

「お前のせいで恥をかいた!」

それ以来
どんなに歯が痛くても
風邪をひいても医者には行かなかった
具合が悪いことも言わなかった

小学生の低学年の頃
あまりの高熱に起き上がれず
さすがに母に訴えた
「寝てれば治る」といつもの言葉

昼まで寝ていても熱は下がらず
40°近くある

当時住んでいた隣の家のおばさんが
見るに見かねたようで母を説得した
「メイちゃん、さすがに尋常じゃない
私が車を出すから病院に行きましょう」
しぶしぶといった感じの母と向かった
市内で一番大きな病院

急性盲腸だった
あと一時間遅かったら
腹膜炎になってましたよ、と先生

私はごめんなさいと謝った
結局お金がかかるからと
予定より早く退院することになった

先生や看護師さんは心配してくれたけれど
一日でも早く退院した方がいいのは
子供心にわかっていたから

「大丈夫です」
とだけ言って

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