見出し画像

愛していると言ってくる⑰

案の定
父は戻ってきた
それもとても嬉しそうに

そしてメイの顔を見るなり言った

「父さんに彼女ができたんだぞ!」

父は今まで見せたことのない笑顔で
彼女の自慢を始めた

彼女の前の旦那さんは
一流企業の偉い人で
離婚の慰謝料がウン千万あること
彼女がとても優しく
母とはまったく違うこと

そして最後に
「父さんはこれから彼女と暮らすから」
そう言って
テーブルの上に幾らかのお金を置いて
出て行った

その後何回か
父はお金を置きに戻ってきたが
それもだんだんと少なくなり

メイが中学二年になる頃には
まったく戻らなくなった

結局
父ともそれきりだ

そんな父もこの世にはいない

メイは
生活に必死だった

時給400円のアルバイトでは
たかが知れているが
それでもなんとかやり繰りして生活した

学校の先生にも
同級生にも言わなかった

それでも狭い町のこと
噂はなんとなく広まった

それとなく聞かれることもあったが
メイは口を割らなかった

中学に上がった時の学力テストで
学年トップ10に入り
偏差値68あったメイだったが
勉強する時間もなく
塾に行くお金もなく
学力はどんどん落ちて行った

勉強できなかったのは悔しかったけれど
自由だった

本を読んで
音楽を聴いて
テレビを見て

一人だったけれど
自由だった

一緒に楽しんでくれる人は
もともといない

何も諦める必要もなかった

学校では相変わらず
狭い身分だったけれど
真剣に授業を聞いてるフリをしながら
メイはいろんなことを考えた

これからどうなるのか
これからどうしたいのか

児童養護施設のことは
まったく頭に過らなかった

そういうところがあるのは
なんとなく知ってはいたが
自分から行こうとは思わなかった

ただただメイは
大変だけれど自分の力で
生き抜くことだけを考えた

それがメイの
生きる支えだった
だからそれで良かったのだと
今でもメイは思う


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?