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愛していると言ってくれ⑯

母が消えた後の父の混乱ぶりと
落ち込みは
メイはから見ても目に余るものがあった

できるだけ
今まで通りに振る舞っていたが
ある日
書き置きを残して父は行方をくらました

遺書とも取れる文章が
そこには記されていた

「〇〇(母の名前)
やっぱりお前の勝ちだね」
「もう生きている意味もない」

メイはとても冷静な気持ちで
その文章を読んだ

そして確信した

父は死なないだろう
正確には死ねないだろう
負けず嫌いの父のことだ
このまま黙って死ぬハズもない

かと言って
メイの面倒を見る為には帰ってはこないだろう


それくらいのことは
簡単にわかった

メイは一人で暮らした
淡々と暮らした
お金はなかったから
アルバイトを始めた

中学校から帰ってきて
毎日週5日
時給400円のアルバイト

そのお金で
学校の月謝や
修学旅行の積み立てや
毎日の食事を用意した

部活は辞めた

時を同じくして
部活で使っていた
クラリネットのローンが払えなくなり
地元の楽器店の主人が家まできて
「金が払えないなら楽器を返せ」と言われ
泣く泣くクラリネットを返した

もう部活にも戻れない

メイは泣かなかった
悲しかったけど涙は出なかった
代わりに
殴られない
蹴られない方が平和を得た

多少お金に苦労はしても
親に叩かれるより
自分で働いて払えばいいのだから

そう思うと気がラクになった

親が2人ともいなくなった日
メイは久しぶりにぐっすりと眠った

もう夜中に
夫婦ゲンカの仲裁で起こされることもない

夜は怖くなかった

メイにとって
始めて訪れた
とても平和で穏やかな夜だった

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