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愛していると言ってくれ③

はじめに壊れたのは母だった
ただそれは群馬に引っ越すずっと前からだ

はじめは叩かれた
それからだんだんと
殴る蹴る
押し入れに閉じ込める
部屋の片隅に閉じ込める
家事や洗濯をさせられる
雪の降る日に裸足で外に立たされる
と少しずつエスカレートしていった

千葉県にいた頃だろうか?
雪の日に外に立っている私を近くの家のお婆さんが心配して家に上げてくれた
コタツに入ってあったかい飲み物を出してくれた

「寒かったでしょう、大丈夫?」
優しい声だった
私は「はい」も「いいえ」も言えなかった
ただ
ここでぬくぬく温まっていたら
怒られる
今までよりももっとひどい目に遭う
だからお婆ちゃん
気持ちはありがたいけど、余計なことしないで

そんなことを思っていたように記憶している

しん、とした時間が流れた
どうしたらいいのかわからない
コタツの暖かさ
甘くて美味しい飲み物

それを放棄するのは辛い
けれど放棄しなければもっと辛いことが待っている

幼稚園児の私は混乱していた
「どうしたらいいんだろう」

そうこうしているうちに
ひどく興奮した声が響き渡った

「うちの教育方針に口を出さないでください!」
鬼の形相の母の顔
あゝ、やっぱりきた

私はそのままコタツから引きずり出され
また雪の中を裸足で立たされた

しばらくしてお婆さんが心配そうに
こちらを見ているのがわかった

「ごめんなさい、私があんなことをしたばっかりに」
そんな目で見ていた

違うよ、お婆ちゃん
あったかいコタツも飲み物も嬉しかった

うちのお母さんがおかしいの
でもお母さんに逆らったら殺されるから
裸足で立ってるしかないんだ

足の感覚は
とうになくなっていた

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