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愛していると言ってくれ⑧

メイは転校を繰り返した
小学校は4回

少しずついろんなことが変わりはじめているのを
肌で感じながら
あと何年と
自分が大人になる日だけを
指折り数える毎日

それが唯一の
メイにとっての希望だった
日々の出来事は
あまりに辛すぎた

千葉から埼玉に越した時も思ったが
群馬に越して更に思った

居場所がなくなっていく、と

群馬県が悪いわけではない

出来上がっている
コミュニティへ入っていく
よそ者の定めのようなものだ

母は好きできた土地ではないから近所付き合いはしない
父は口実として仕事が忙しいと言ってるが
本当のところはわからない

あれは埼玉の学校にいる時だったろうか
毎月、給食費の袋が渡される
当時3000円くらい

その袋を母に差し出せば
「うちに金がないことを知っててよく出せるな」と言われて叩かれるのはわかっている

けれどまだ小学生のメイには
3000円は自分では用意できない

作文が得意だったメイは授業で書いた

「うちのお母さんはいつも怒った顔をしています。給食袋を出すと叩かれます」と
その時の担任の先生がその作文を読んで言った

「給食費は先生が払うから
お母さんには言わないでも大丈夫よ」と

先生の名前は忘れてしまったけれど
ありがたかった
確か産休に入った担任の代わりにきた
若い女の先生だったと記憶している

埼玉の家は
だだっ広い土地にほったて小屋の作りで
トイレと風呂は家の外にあった

当時、子供を風呂に沈めて
追い焚きをして茹で殺す事件が何件があった

ある日母が笑いながら言った

「うちもやろうか?
お前が風呂浸かっている時に追い焚きしてお湯をどんどん熱くして風呂場に鍵かけて出られないようにしたらどうなるかねー」

「釜茹での刑だね」
そう言ってケラケラと笑った

メイは心底怯えた
あの人ならやりかねない

言いようのない緊張感が
メイの身体に走り
どこにいても安心することはできなかった

新たな恐怖がはじまった

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