愛していると言ってくれ⑭

仲の悪い夫婦だった両親だが
なぜか正月に父の親戚が一斉に集まるという
習わしがあった

母は行きたくないしか言わない
メイもできれば行きたくなかった

父は昭和の子だくさん家族の下の方
他の兄妹たちはそれなりに
家を持ち
車を持ち
ゴルフを楽しみなどという余裕のある生活

比べてうちは
毎日が夫婦ゲンカ
そのほとんどが
お金がない

それなのに見栄っ張りな父と母

一年にたった一度
数時間の集まりの為に
服を新しくし
とりあえず「それっぽく」仕上げる

ある年の暮れ
メイは言ってみた

「来年のお正月に着る服が欲しい」

親の服を買いに行った先で
真っ赤なワンピースを見つけてしまったのだ

いつもは我慢しているメイなのに
なぜかこの時は口に出してしまった

顔を歪め
困った顔の親たち

それは「買ってあげたいけどお金がない」
困り顔ではなく
「何をめんどくさいことを言い出すんだお前は」
の表情

メイは自分が言ったことを後悔した

自分がとても悪い子に思えた
私がこんなことを言ったから
親は困ってる

母は父に服を買うことを禁じられていたから
本のわずかな服しか持ってなかった

メイがこんなことを言わなければ
お母さんは好きな服を買えたのに

心の中でメイは母に謝った

そしてもう決して
自分の希望を言うことをやめようと
心に決めた

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