思い出を痛ネイルにする魔法
俺達の勇者・鳥山明はこのクソったれな人生を終えた。どう思っていたのかは本人しか知らないが、それでも「悪くない」と思っていてくれたら嬉しい。だけど勇者はもういない。
かのアニメが終わった知らせを受け、しかしまだ観きれてない今日この頃。それでもコミックスではもう見てる。見終わってる。第二期あるかしらんけど、連載は終わりまで続くはずだよ。そういうわけで、俺達はそこにある勇気をちょいと引っ掛けていくのさ。
悲しいひとは悲しくてよい。誰も泣けない葬式より、誰かが泣いてくれる葬式は有難い。でも誰もが泣けるとは限らない。涙が出ない派としてはついに自世代レジェンドを葬送する立場になったと腑に落ちる。それは感慨深く晴れやかでさえある。その日も笑顔で見送っていた。
享年68歳。たぶんヒンメルくらい生きてる。多忙きわめる短命の宿命に呪われる漫画家として、この祝福はとてもすごいことではないだろうか。長く生きればいいというものではない。けれども意図せず長く生きたからには、生きる余地がそこにまだあるということを俺達は知っている。
さて、ここからも笑顔で見送ってもらいたい。
ネイルサロンに通う勇者を、俺はやった。
勇者トリヤマの死の298日前。
インターネット中央諸国
魔都𝕏トラール郊外。
痛車町近郊・痛爪村にて、
勇者ギャルネイル伝記が供された。
さすギャル。ドリルギャル。天元突破。アニキ。それは漢なら惹かれてしまわざるを得ないもの。でも実は通しで完走できていないのでずっと心残りがそこに在る。
アニキィ……。遠くからこうしてお近づきになれるだけでも、さすギャルという尊みの塊。もうこれ遠隔で俺達のスタンドがネイルしてもろたみたいなもん。本体のことは気にするな。死ななければ生きてる。
だがしかし現在の本体。なんかたまたま機会が発生してしまった。塗ってもらっちゃった。なぜ……? わからない。しかし実際に爪操作を実行するとすごくキョドる。「アッ……ア……!(爪だいじょび?)」となる。
セロハンテープをはがすだけでも、これ以上、力をかけてええか? ええのんか? とためらいが発生する。そしていまキーボードをぺちぺちしていると、右手親指だけ「慌て」が発生する。
右手親指、爪の側面でキーを打鍵している。
このあたりは指の骨格個性によるのかも。ともあれ一過性の不便を享受しているのだということがビンビンに伝わってくる。あたらしい不便、やや気持ちいい。なぜ。わからない。この「慌て」に慣れるころ(1ヶ月後?)には剥がしてしまう運命であるが、懲りもせずまたやってしまうかも。
ああ、人類は愚かだ……。
ところで、実は風呂場がいちばん爪を鑑賞できる。他に見るものがないから(電子機器を風呂に持ち込むのはやめよう!)。スマホを見る代わりに爪を見ると心身にいいのかもしれない。ヘヴィメタがガンに効き始めたので、ネイルは当然メンヘラに効く。きっと効く。
そう。指を使うと決めたなら、もう爪を使うことが決まっている。指を遣おうと思うと爪がありえん光を湛えており、違和感がすごい。闇の眷属に光の爪を与えてはいけない。それは目を焼く。自分はしぬ。
くっ……光耐性もちのEvilどもがァ……!
どうもメンヘラに効くというよりはメルヘンに利いているのではなかろうか。それはまあいい。とにかく、なるほどこれは知ってるイケショタだ。ツンデレ型イケショタだ。俺は詳しいんだ。
なるほど完璧な「猫キャラ」ッスね~~~!
思った通り、いや思った以上に痛車と同じオーラを感じる。「ガチ」だ。どうやって生活すんのキミたち。ねえこれ生活どうすんの。だがギャルってゆうのはな、生き様だからな。キラキラだろうがギラギラだろうがイタイタしかろうがそれはそれ。
ギャル魂ってこと。
真面目な話をすると、オタクはギャルをすきだが、実際の生き様はかなり真逆で相容れないものとされる──されるが、オタクが普遍化してしまったため、すこし説明が困難になったように思う。
そう。俺は日和ってしまった。さすがにギャルをやる器がないことなど弁えている。だから「なんかちょっとカッコいい龍」がいるデザインで満足してしまった(注文通りの超絶技巧)。いや謎の☆つきボールあるけど(注文通りの超絶技巧)。え? ビジネスカジュアルですがなにか? でワンチャン言い訳を貫けるようにオナシャス!! と言ってしまったのだ!!(注文通りの! 超絶技巧!!!!!!!!!)
ともあれ。何が好きかで俺が語る!(ドン!)とやれなかったのがオールド・オタクである。ニュータイプ・オタクはそんなことない。オールド・オタクの屍の上に自由の塔が立つ。
それは個々の自由に委ねられている。アフタヌーンティーで月刊アフタヌーンとモーニングをくゆらせてハルタでハスハスすればいいのである。堂々としろ。自由に負けている場合か。立て。俺は立つ。
勇者トリヤマの死から22日後。
海洋諸国サンライズルート
聖都イーストシティ郊外。
思い出を痛ネイルにする魔法を使った。
p.s.
コミックス背表紙の装いを意識して、爪と爪で龍がつながる絵柄を所望し実現済であります(注文通りの☆超絶技巧♡♡♡)
われわれが深淵を覗くとき、深淵もまたわれわれを覗いているのだ……