第387回 < 株価のバリュエーション調整 >
足下の株価の変動率の高さは、直接的には物価上昇、米国の金利上昇、ウクライナ情勢が大きな要因となっているように思われます。しかし、きっかけはどうあれ、長引いた大型金融緩和を追い風に上昇を続けてきた株式相場のバリュエーションが調整局面に入った可能性は考えておいてよいのではないかと思います。S&P500の予想PERは2020年から21年にかけて、2000年前後のITバブル期のピーク時の26倍超と肩を並べてから、足下20倍程度まで下落してきています。米国では、前回のITバブル崩壊後2年程度をかけてS&P500のPERは16倍を割り込み、その過程で株価も調整を続けました。PER自体はその後も低位で推移し、リーマンショックを経て2011年に底を打つまで12-18倍のレンジでの推移でした。
したがって、仮に前回のサイクルを踏襲すると考えれば、今回2021年にピークをつけたPERの調整が10年程度継続しても不思議はないかもしれません。一方、日本株式市場に目を向けると、企業同士の持ち合い株の影響か、PER自体は長期にわたって高い水準で維持されてきましたが、持ち合いの解消に伴い、現在では米国並みに修正されてきました。
筆者は2000年当時、投資運用会社で年金基金のファンドのポートフォリオ運営を担当していましたが、ITバブルの崩壊とあいまって、バリュエーション調整が長引いた環境下で、株式市場でも様々な事件が起きたことを覚えています。市場環境が追い風の時には顕在化しにくかったリスクが、向かい風の時には顕在化する可能性は高いと思っています。このような環境下では、防衛的なポートフォリオを構築するという考え方もあるかもしれませんが、むしろ長期・継続投資の原則に立ち返って、淡々と投資を継続することが重要であることは身をもって経験してきました。
この先、数年単位でバリュエーションの調整、あるいは下方向へのオーバーシュートによって株価の冴えない状況が続くことがあったとしても、私どもの運用するファンドの夫々の投資戦略にしたがって、継続的に安定して投資を行うことが最終的な期待リターンの達成に結びつきます。むしろ、価格の調整時にしっかりと投資ができないことが長期投資にとってはマイナスに働くことを肝に銘じて業務に取組んでいきたいと思います。