ポルトガルで気付いた脱炭素の大波

当社、會澤高圧コンクリートはこれまで、安全第一(Safety First)、品質第二(Quality Second)、生産第三(Products Third)という少し風変わりなモットーを掲げて来た。

3つの重要事項に敢えて序列をつけることで、判断に迷ったとき、何が優先されるか、基準を社員に明確に示すためだ。

2020年11月16日。コンクリートが勝手にひび割れを直す技術、自己治癒コンクリート事業の「Day1」を迎えるにあたり、約20年ぶりにこれを見直し、3つの事項のさらなる上位価値として、脱炭素第一(Decarbonization First)を掲げることにした。

脱炭素という概念に目覚めるきっかけをつくってくれたのは、2019年11月、ポルトガルのリスボンで開催されたWeb Summitだ。

全欧州から腕に自信のある若者が集う欧州最大のテクノロジーEXPOだが、とにかく環境への意識は高い。

会場でペットボトルの飲料は一切買えない。マイボトルを持ち込むことを参加のルールとし、会場の各所に用意された水タンクから給水を受ける仕組みだ。

ひとりふたりではない。ほぼすべてといっていい登壇者が気候変動への懸念を何らかの形で口にし、企業は何をなすべきかを熱病のように語る。

「脱炭素」からすべての活動を捉え直す。意識していなかった訳ではないが、そのレベルの彼我の差に圧倒された。

コンクリートの原料となるセメントを1㌧生産することで排出される二酸化炭素(CO2)の量は、およそ0・8㌧に達する。

セメントの主原料は多量のCO2をその中に固定化している石灰石。それらが焼成、溶融、加熱されることによって、大気中に温室効果ガスを放出する。

我々の産業にとって不都合な真実だが、地球環境が悠久の時間をかけて固定化したCO2を、文明社会はあっという間に大気に放出してしまうわけだ。

日本のセメント消費量は年間で約4,300万㌧なので、年間で約3,400万㌧ものCO2が大気中に放出されることになる。

これは国内の全産業が放出するCO2の5~7%に相当し、サプライチェーンを含めればセメント・コンクリート由来のCO2は、優に二桁に達するだろう。

文明の維持にコンクリートは欠かせない。しかし、気候変動により地球が壊れてしまったら元も子もない。

将来の更新需要を奪うかもしれない“壊れないプロダクツ”を供給することは、どのメーカーにとっても覚悟の要ることだが、その一方で、最も確かな未来の選択肢になったのだ。

バイオ由来の自己治癒コンクリートは、コンクリートを事実上の永久構造物化するテクノロジーだ。

この先、新規に製造するコンクリートは原則、この処方下で提供されるべきだし、既設のコンクリートの劣化問題への対応も、修復後の再劣化にレスポンシブに対応出来るバイオ由来の補修材であるべきだと思う。

コンクリートの自己治癒化とは、つくっては壊しを繰り返す20世紀モデルと、本気で決別することである。

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