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第1回インフラメンテナンス大賞 優秀賞 農業水利施設における地域住民参加型「直営施工工事」

1.インフラメンテナンスの取組の背景、経緯(これまでの取組)、目的等
農業水利施設は、膨大で、かつ、昭和30〜50年代にかけ造成した施設が老朽化してきている。
 また、米価低迷や農業従事者の高齢化により、これらを維持管理する農家負担も大変になってきているし、施設改修のために行政機関による補助事業予算の確保も難しくなってきている。
 しかし、災害防止と用排水の適正管理を図るためには、農業水利施設の保全は、重要であり、当地域においては、施設の適正管理のため、限られた補助事業で、高度な施設機械の改修や保全を発注工事(請負)とし、補助事業の有無にかかわらず、それ以外の工事を地域住民が作業員となり、直営施工工事として行い、コスト縮減と適正時期における保全工事(長寿命化)、使い勝手のよい施設改修、雇用の創出を図り、農家負担の軽減に寄与している。
 現在においては、比較的高度で規模が大きい工事(水路ライニングや鉄筋コンクリート水路の更新_単年事業費2,000万円、延作業員900名)も行うことができるが、最初からそのようなことが可能であった訳ではなかった。
 まず、組織内外から、品質、安全の確保、施工管理、コスト縮減ができるのかと疑心を持たれた。このことは、実績を重ねることで解決してきた。
 先進的な補修工事(水路ライニング工)は、平成16年度から行っているが、当時、まだ、工法や資材選定が多様で現地試験施工や工法、作業手順に改良を重ねながら行って現在に至っている。(平成19年度農業農村工学会東北支部優秀賞表彰案件)
 長年の取り組みによって、当地域の主たる農業水利施設には、老朽化が著しく、機能保全(長寿命化)の時期が過ぎて、工事費の増大や施設機能の低下により災害を助長させるような施設がない状況となっている。
2.実績
書面の都合上、補助事業を利用した直営施工工事のみ記載
平成16年度施設改善対策事業直営施工工事(いわき市平下大越)、根岸支線水路、排水フリューム据付工、農道改良工_工事費350万円
平成16〜20年度新農業水利システム保全対策事業直営施工工事(いわき市平菅波〜藤間)、愛谷用水路、水路補修、水路敷整地及び防護柵設置、越流工新設、溜池土砂吐ゲート新設、水管水路新設、簡易ゲート製作据付_工事費8,680万円
平成21年度農地有効利用事業直営施工工事(いわき市平菅波〜下高久)U字溝据付、水路表面保護工、工事費約800万円
平成23年度維持管理適正化事業直営施工工事(いわき市平赤井〜下高久)愛谷用水路(震災により発生したクラック約2,000本及び目地補修)、工事費561万円
平成20〜現在多面的支払交付金事業直営施工工事(いわき市平山崎〜藤間)、主に支線水路のU字溝布設替え、毎年約500万円
平成24〜28年度農地水復旧直営施工工事(いわき市平山崎〜荒田目)、水路補修工ほか、単年当り約500万円
3.主な受賞歴
・2005年10月26日 平成17年度21世紀土地改良区創造運動大賞表彰「地域住民参加型による土地改良施設の維持管理の取組」全国土地改良事業団体連合会
・2006年10月1日 平成18年度いわき市市制功労 元気あふれるふるさとづくり賞表彰「土地改良施設維持管の取組」いわき市(愛谷江筋愛護会として)
・2008年4月23日 環境保全善行賞表彰「土地改良施設維持管理の取組」ライオンズクラブ国際協議会332−D地区ガバナー(愛谷江筋愛護会として)
・2008年11月19日 みんゆう環境賞表彰「土地改良施設維持管理の取組」福島民友新聞社(愛谷江筋愛護会として)
・2009年10月29日 農業農村工学会東北支部優秀賞「地域住民参加型土地改良施設直営施工による水路補修工事」農業農村工学会東北支部
4-1 独創性
長年の直営施工の実績や経験から次のことが行われた。
・福島県として、補助事業(平成16年度新農業水利システム保全事業)の直営施工を初めて認めて頂いた。
・メーカーに対し、コンクリート二次製品として、排水フリュームの有孔製品の提案をし、採用され、いわき地方の農地水事業によるU字溝布設工事のコスト縮減と工事時間の短縮が図られた。
・工事の積算及び施設の管理者が直接工事をすることで、維持管理を考慮した施設改修、補修が低コストで時間も短縮して出来る。
・作業員は、農家を中心とした地域住民であり、雇用の創出と非繁忙期を利用した農家の所得向上に寄与している。
・土木業者同様に一級土木施工管理技士や二級建築施工管理技士、労働安全衛生法に基づく重機や高所作業車等の技能講習修了証や地山の掘削等の作業主任者資格を修得し、かつ、部材や資材の調達先や建設機械等リース業者も確保していることから、災害時にも迅速な対応ができる。現に、東日本大震災の津波により、被災した排水機場の運塵機の応急復旧、津波で流されたコンクリート擁壁に変わる大型土納による仮擁壁、大規模に傾いた屋外重油貯蔵所の復旧などを行い排水機場を復旧させた。また、津波により、変形し、湛水不能となった頭首工(堰)は、コンクリート型枠の要領で、合板、垂木などを組んで止水シートで湛水を図り、5月初めの田植えに間に合わせた。津波により農地に大量のゴミや土砂が堆積したが、重機やダンプで除去作業にあたった。未曾有の大災害と原発事故の中、土木業者も手がいっぱいであり、直営施工であるからこそ出来たといえる。
4-2 積極性・継続性
・コスト縮減を図るには、施工管理や作業手順の効率化が重要であり、日々、作業員と打合せを行っている。
 安全の確保には、作業員の安全作業への徹底した教育が必要であり、特に危険を伴う作業には、どのような危険があるのか、安全に行うにはどのようにしたらよいのかなどを理解されるまで教える。安全作業が出来ない者は、配置転換も必要である。
 品質の確保には、それぞれの工種に重要な項目があり、それを忠実に履行するば品質は確保される。
 例えば、生コンクリート打設であれば、打設する箇所の清掃、搬入コンクリートの品質の確保、打設方法及び時刻、バイブレーターのかけ方、鏝のあてる時刻、養生、枠の撤去時期である。
 万が一、怪我をした場合に備えて、直営施工工事に労災保険をかけている。
・取組期間_直営施工の本格的な実施(資格修得)は、平成10年からであり、19年目を迎えている。
・直営施工工事の実施までの流れ_施設診断、改修・補修方法の検討、工事積算、実施時期の検討、予算の確保、実施年度に施工計画の作成、作業員の公募、施工、竣工検査。
・今後2〜3年程度の取組予定_基幹水路の表面保護工(長寿命化)、水路法面及び畦畔に対するカバープランツ植栽工、支線水路U字溝布設工の直営施工_工事費予算単年当り500〜700万円
・継続的・安定的な効果を確保するために実施している取組_農地水組織に対し直営施工時の指導的作業員育成を図っている。
4-3 地域性
・当地域の大部分は、農業振興地域であり、住民は、農家・非農家に関わらず、生活する中で、農道、水路を利用しており、農業水利施設や農道の維持管理、直営施工工事に地域住民が一丸となって参加するように指導している。
・愛谷江筋愛護会(農地水広域組織)の構成員は、愛谷堰土地改良区組合員約650名の他に、市街地住民約1,800名、企業12社、小学校、PTA、子供会6、更生保護女性会、老人会、農事組合、消防団、行政区9、実構成世帯数約2,500世帯となっている、企業としては、会費の負担、労力や資材の提供等があり、それ以外の構成員の大部分は、用排水路や農道の浚渫、草刈、敷き砂利、清掃などに参加し、年間延べ参加者は、約1,800名となっている。また、愛護会が行う直営施工工事(U字溝布設や目地補修など)には、年間延べ参加者約500名となっている。
・土地改良区の直営施工には、年間延べ500〜700名(工事分100〜300名)の地域住民が参加している。
・水路敷きの美化、緑化の一環として、地域住民とあじさいを植栽し、7月に「あじさい祭り」を開催し、地域の子供向けイベントとして定着してきたが、現在は、原発事故による諸問題で祭りイベントを自粛している。
4-4 生産性・効率性
・本取組の直営施工工事を行うことによって、費用は、賃金や材料費、仮設費などであり、請負工事(発注)に必要な一般管理費などの費用が節減できることから約60%のコスト縮減がされた。また、材料や建設機械賃借料も代金支払などに信用がおける組織からの大量需要であり、設計単価を下回る支払となっており、この部分のコスト縮減は、10〜30%となっている。
・本取組によって、農業水利施設、農道などが適切に維持管理された状態となったことにより、配水調整労力の軽減、老朽化による工事費用増大の削減、施設機能障害による災害の予防などが図られた。また、大半の地域住民が参加しているので、異常施設の発見(通報)が迅速に行われている。
・本土地改良区の直営施工工事の取組や農地水組織への指導的役割や人材育成を果たす中で、地域の農地水組織も積極的に直営施工工事を実施するようになった。
・本取組は、土木工事施工の知識と経験とその指導能力があれば、出来る事であり、取組を地域として行うこととすれば、中心となる人物が住民の中に1〜2人、数年間協力できる者がいる事が多い。
・コスト縮減の一例(別紙 地域住民参加型土地改良区直営施工工事による水路補修工事)
 請負工事施工とした場合の積算額28,120千円 直営施工工事総額18,737千円 コスト縮減9,383千円となっている。
しかし、記載のモルタル施工数量、施工延長、工種を元に詳細に積算(発注)するとコスト縮減額は数倍となる。
4-5 メンテナンス分野への影響
・地域住民が共同で、地域環境の保全を行うことで、地域コミニティの活性化に繋がり、遊休農地の解消、農村環境の美化、土地改良区賦課金完納、大字区費滞納者の減少、災害時の弱者誘導体制の構築などが図られている。
・開発提案した排水フリューム(受口用100㎜有孔あり)は、PR不足であるが、一地区当り年間10本程度の需要がある。(H28年12月現在、メーカー 万年コンクリート調べ)
・農業水利施設の長寿命化、補修の多くを長年にわたり地域住民参加による直営施工工事で適正に低コストで実施することで、農業水利施設の適正管理と雇用の創出(所得の確保)、施設への愛着が図られ、「地域の自分達の施設、地域財産(宝)である。」という認識が地域住民に根付くことになる。
・行政区にとって、愛谷堰土地改良区が最も信頼のおける組織(団体)となってきている。
・当該取組の直営施工工事で最も技術レベルの高い直営施工工事は、水路の漏水止水工事と水路ライニング工である。
 水路の漏水止め工事は、水路の補修などを行う場合に、既存水路に対する湧き水などを安価で止めるためには、止水セメントや止水材で行うが、その水圧や水量によって、工法が異なってくるし、補修時に簡易的に水を迂回させる仕法を選択する場合もある。東日本大震災の復旧工事時には、それぞれの分野で、既存施設の漏水止工事を迅速、かつ、確実に行う必要があるため、当方に問合せが相次いだ。
 水路ライニング工は、当方は、樹脂モルタルによる表面保護工を実施しているが、表面の更なる摩耗・劣化防止しを図るため、防水モルタルをエアレスポンプで吹き付けを行うこともある。この防水モルタルのエアレスポンプによる吹付けは、平成16年時には、当方やメーカーの調べでは、前例がなく、防水モルタルの成分やエアレスポンプの能力を対比し、実証試験の末、見つけ出した工法であった。
 当方の防水モルタルのエアレスポンプによる吹付け工法は、日量(二回仕上げ 2.5ミリ)150〜180メートル(750〜900平方メートル)を作業員6名で実施する体制である。このことによって、更に施工コストの縮減が図られた。
 

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