ネイビーブルー

遺書を書く癖があって、でも破る癖もあるから、彼は生きている。
カステラみたいなマンションに住んでてね、冬は紺色のコート、夏は紺色のTシャツを着てるから、紺色が好きなんだなと言うと、
「不思議なことを言う奴だ」
などと彼は言って、紺色の自転車にまたがって漕ぎだすのです。
彼の部屋には本以外、ほとんど物がない。
家具がない、調理器具がない、カーテンもないもんだから、脱いだコートはカーテンレールに吊るさざるを得ない。

常に何かを諦め続けているような顔をして、髪はクシが折れそうなほど乱れ、デニムは28インチ、右目の横に幼少期に負った小さな傷があり、風邪を引く度に、どの薬を飲んだら良いのかいちいち聞いてくる彼に興味を持ったなら、会ってみればいい。壊れた携帯電話みたいにすぐ電池切れになるから、夕方までに済ませた方が無難だろう。
七丁目のマンションから五丁目の喫茶店まで、歩いてもさほど掛からない。
氷水で顔を洗って人生やり直したいなあ、なんて彼は君にも言うだろう。タバコの煙の向こう、喫茶店の変色した壁にだらんと目をやりながら。
時々、ハッと何かを思いついたような顔をするけど、あんまり何も考えてないんだ。
いま僕の目の前でそれをしてるけど、間違いないよ。


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