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Nahuel Note #068 "Un año, una noche"〈Ramón〉(2022)

『Un año, una noche(一年、一夜)スペイン、フランス、2022年、120分

公開日:2022年2月14日 (ベルリン国際映画祭コンペティション部門にて初公開)、2022年10月21日スペイン公開、2023年5月3日フランス公開
言語:フランス語、スペイン語
英語タイトル:One Year, One Night 
独語タイトル:Frieden, Liebe und Death Metal

監督:Isaki Lacuesta
脚本:Fran Araújo, Isa Campo, Isaki Lacuesta
出演:Nahuel Pérez Biscayart … Ramón
Noémie Merlant… Céline
Quim Gutiérrez… Carlos
Alba Guilera… Lucie
Natalia de Molina… Julia
C. Tangana… Héctor
原作:Ramón González "Paz, amor y death metal"

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Trailers
フランス語版
スペイン語版(吹替)
英語版
ドイツ語版(吹替)
イタリア語版(吹替)
ロシア語版(吹替)

Clip for Berlinale_1
Clip for Berlinale 2
Clip for Berlinale 3

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Interviews and articles
One Year, One Night | Press Conference Highlights | Berlinale 2022
一年一夜 |記者会見ハイライト |ベルリナーレ 2022(自動生成日本語字幕)
One Year, One Night | Red Carpet Highlights | Berlinale 2022
Medyascope Berlinale'de | "One Year, One Night" filmi(トルコ)
pdn-Berlin
sansebastianfestival
Zinemaldia 2022 - Presentación de "Un año, una noche"
Un año una noche | Nahuel : "Cuando me enteré lo que pasó en la discoteca Bataclán fue horrible"
Un año, una noche. Días de Cine TVE

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概要
 
2015年11月13日、フランスのパリ市街とサン=ドニ地区の商業施設において起こったパリ同時多発テロ(死者130名、負傷者300名以上)、コンサート会場バタクランでのテロ事件生存者であるスペイン人、Ramón Gonzálezが2018年に出版した "Paz, amor y death metal"(平和、愛、そしてデスメタル)の映画化。
 この日、バタクランではアメリカのバンド、Eagles of death metal のライブ中に襲撃された。この映画は、ラモン自身が撮影に立ち会いながら作成された。恋人のセリーヌは実際はアルゼンチン人であるが、フランス人に設定を変更。撮影はコロナ禍の2021年2月より開始され、バタクランのシーンは、バルセロナのアポロシアターで撮られた。

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参照: パリ同時多発テロ事件を題材とした映画、ドキュメンタリー
・『パリ同時多発テロ事件: そのとき人々は』(2018)
・『ぼくは君たちを憎まないことにした(Vous n'aurez pas ma haine)』(2022)
・『パリの記憶(Revoir Paris)』(2023)
・「惨事は克服できるか:テロを描く最新フランス映画に見る魂の回復の道のり」矢田部吉彦

 『ぼくは君たちを憎まないことにした』を書いたジャーナリストのアントワーヌ・レリスは、妻がバタクランでテロに巻き込まれて帰らぬ人となり、幼い息子と残される。にも関わらず、テロの3日後に、FBにて「ぼくは君たちを憎まないことにした」というメッセージを掲載し、テロリストへの憎しみを抑えるメッセージに多くの人が感銘を受け、拡散された。その後、小説を執筆、映画化。憎まないと宣言した後に訪れる、被害者家族の心の葛藤が描かれている。
 『パリの記憶』は、雨宿りにレストランに入った女性がテロに巻き込まれる。命は助かったものの、ショックで当時の記憶が部分的にない。彼女は一人でトイレに篭って卑怯だった、と言われ、自分の行動を知るべく、テロの犠牲者家族やサバイバーと交流しながら記憶を補完して行く。

 『Un ano una noche』はスペイン語版DVDしか出ていない。映画のほぼ大半を占めるフランス語部分は、このDVDではスペイン語吹替か、あるいはスペイン語(あるいはカタルーニャ語)字幕を付けて見ることができる。ということで、スペイン語力が赤子レベル、フランス語もまだまだの私は、フランス語音声と、スペイン語字幕をGoogle翻訳のカメラに読んでもらう、という方法で鑑賞しました。もどかしい。あぁ、もどかしい。ノエミとナウエルさんのカップルの映画をなぜ日本公開しないんだ〜。


 映画は、ラモン(ナウエルさん)とセリーヌ(ノエミ・メルラン)のカップルの、テロの一夜とその後の生活を一年に渡り描いている。ノイズのように意識に混ざってきたり、フラッシュバックする「あの夜」の記憶がそこに少しずつ重ねられ、彼らに何があったかを肉付けしていく作りになっている。
 金色のアルミシートを纏ってパリの夜道を歩くシーンから、裸でベッドで身を寄せ合う二人のシーンへ。朝。いつもの?ではない。緊張がまだ身体に残っている。ラモンはギターを爪弾いてみる。セリーヌはネットで普通に買い物をしたり、洗濯をしたり。しかし洗濯物は一回洗っただけでは「あの」匂いが落ちないし、部屋には昨日の金色のシートが落ちている。
 あの日、プログラマー(?)のラモンは、職場からバイクでバタクランへ。リセ(あるいは問題のある児童施設?)の職員であるセリーヌや友人たちと合流し、ライブを楽しむ。途中でセリーヌは上の階へ移動。その時銃撃が始まる。階上の楽屋に逃げ込んだセリーヌは、そこでラモーンと再会する。
ラモンは運よく命は助かったが、背中の打撲と共に、大きなショックを受けており、その後パニック発作で過呼吸になることも多く、病院でカウンセリングを受け、休職する。一方セリーヌは職場にもテロに遭遇したことを伝えず、自分は大丈夫である、という立場で頑張る。二人は同じ事件に遭遇したものの、別の仕方でその事件を乗り越えようとするため、うまく噛み合わなくなっていく。

すぐに日常を取り戻そうとするセリーヌ。

テロを共に体験した友人たちと過ごす。

ラモンの故郷、スペインの親戚、友人らと。

海にピクニックへ。

 かつてそうだったような「自分たち自身に戻りたい」と願いながらも、うまくいかない二人。曇りガラス越しに思いを打ち明け合い、セリーヌは別れて生きていきたい、と伝える。
 その後はセリーヌの行動に焦点が当てられる。セリーヌは職場で感情的な行動をとってしまい、ようやく自分もあの日とても怖かったこと、孤独に耐えてきたことを認め、人に打ち明ける。休職し、実家へ戻る。
そして時間が経ち、またパリに戻ってきたセリーヌは、営業を再開したバタクランへ行ってみる。すると店の前でラモンと再会…。抱き合う二人。

 血塗られた映像はなく、火薬の粒子が美しく舞ったり、彼らが保護された時に身に纏った金色のシートが煌めくなど、光の美しい映像に、胸を締め付ける悲しい音楽が彩る。バイクに乗ったり、ジョギングしたり、ローラーブレードしたり、ギターを弾いたり、歌ったり、教室でワークショップをしたり…。色々なナウエルさんが見られる。ノエミの素直な表情もいつもどおり好感。ノエミの方が少し背が高く、そのバランスが良い。二人ともクィアな役の印象が強い俳優であり、単純に男性が女性を守る、ようなイメージがこの二人だと沸かない。

 一番グッときたのは、ラモンとセリーヌが、部屋でイマジナリーフレンドの話をするシーン。セリーヌは子供の頃はそういう存在が居た、と語り、ラモンは今までいなかったけれど、最近できた、と答える。部屋の壁に当たる光を捕まえて、彼のイマジナリーフレンド、Totiを紹介するラモンの曰く言い難い表情には、繊細で悲しく優しい感情が秘められていた。
 せがまれてセリーヌが何度も歌うのは、童謡「À la claire fontaine」。

"Je m'appelle Toti. Je suis trés sympa, j'aime beaucoup la vie."

 セリフはしっかり理解できていないけれど、二人がとても魅力的。なんというか、似合ってない。それがいい。一生懸命相手のことを好きで、必要で、自分が生きるためにその関係を続けようとしている感じが、物語と合っている。大事な家族を失ったわけでないが、自身が大きなショックを受けた恋人たちが、再び自分たちの人生の歩む足取りを取り戻す物語と。
 何卒、日英独仏いずれかの字幕をお願いします…

スペイン版DVD
コロナ禍での撮影風景
2022年2月14日、 第72回ベルリン国際映画祭 コンペティション部門、プレミア上映
2022年9月17日、  第70回サン・セバスティアン国際映画祭, Perlak部門
2022年10月17日 スペイン(マドリッド) 初上映