僕のファーストキス

小学校4年生の時だ。秋だったか冬だったか。風が強くて寒かった日だという記憶がある。僕の地域ではとにかくサッカーが人気で、休み時間はクラブに入ってるかどうかは問わず、男子はみんなサッカーをやることになっていた。そんな僕も例に漏れず、テキトーに球蹴って遊んだけど、その日は寒くて体が悴んでしまってて、ジャンパーのポケットに手を突っ込みながらプレーしてた。

それで当たり前のように転んだ時に無防備で体を打ちつけてしまって。漫画みたいに膝小僧が血だらけになっちゃってた。剥がれた皮膚の奥に砂利が刺さってて風が吹くたびにヒリヒリした。僕はほとんど半泣きになりながら一人でとぼとぼ保健室に向かった。

保健室に入るとアルコールの匂いと一緒にあったかい暖房の風がブワッと体にまとわりついてくる。僕の姿を見て保健室の先生は「あらあら」って感じだった。先生は保健係の生徒を呼んで傷口を消毒してからバンドエイドを貼るように指示した。その日の保健係は6年生のアンナだった。

アンナはクラスメイトのミツハルの姉で、ブラジルだかペルー出身だった。僕が育った地域は山岳工業地帯だったんだけど、そういう工場で働いてる人の、南米から来たニューカマーの子供がクラスには数人いた。中でもミツハル姉弟は住んでた団地も近かったし、ミツハルとはクラスメイトだからたまに一緒に遊んでた。

アンナは「どしたのーやっばー」ってびっくりしながら僕を椅子に座らせてくれた。

「これ痛かったでしょ、ね。みんなもアイノかわいそーって言ってたでしょ」

そういいながらアンナは僕の膝小僧に豪快にマカロンをふりかけてた。痛がったけど、彼女はお構いなしだった。

椅子に座る僕に対して、アンナは軽い体育座りをしていた。ポニーテールだったのもあって、黒髪のツムジがまんまる綺麗でびっくりした。彼女は小6女子の中でもかなり大きい方だった。体格もがっしりしていて肌も浅黒い。ちょっと太ってたけど、本当にラテン系って感じだった。

消毒が終わって、バンドエイドを3枚くらい開けた。アンナは最後のバンドエイドを右膝に貼ったあと、そこを手のひらでぐうっと押さえながら「終わり」と言った。そのまま立ち上がる時に僕の唇にキスをしてくれた。分厚くて柔らかくて「人の唇ってこんな感じなのか」と数秒間恍惚としてしまった。まるでついでのおまじないみたいな感じだったが、体感的にかなり長く感じた。髪から姉がよく焚いてるお香の香りがした。

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