[アイロボ]1章4 アイロボ4

そう短くいうとよしさんは、その場からまた歩きだした。
「あの人は、あんまり人と関わろうとしない人さ。そんな人はこの世界じゃ酷く生きにくい。それでもあの人はそういう人なのさ」
よしさんは、なんだか全てをわかったような口調でそういった。
よしさんはまだ何かいいそうになったが、言葉を飲み込んで黙って歩いた。
その間も顔見知りの仲間をみつけると声を掛け炊き出しの事を話したりしていた。
よしさんは、今夜の炊き出しの事を知らせる為に新宿中歩き回っていたのだろうか?
そんな義務はないはずなのに。
人と関わろうとしない奴は酷く生きにくい。
よしさんはそういった。
でも今日よしさんと一緒にいてなんだかんだやっていけるんじゃないかと僕は思った。
人はそんな簡単に死んだりしない。
強い生命力があるように感じた。
だけどそれは違うのだろうか?
今まで比較的裕福な人達を渡り歩いてきた僕は本当の世の中を知らないでいるだけなのだろうか?
僕は本当の事なんて何もわかっちゃいないのかもしれない。

夕暮れが近付いていた。
寒さが更に増したようだ。
人々は足早に目的地に向かう。
この街は、今から今日が始まるようなそんな慌ただしい雰囲気が立ちこめていた。
人々は色めき立ちそれぞれがそれぞれの思いを抱えやってくる。
でもよしさんは、そんな事は俺には関係ないとばかりに新宿を横切りまた西口まで辿り着いた。
さっきの雰囲気とは違いここは少し穏やかだった。
仕事終わりの疲労感が漂い家路に急ぐそんな人々の足音だけが耳に残る。

「今夜は、本当に降るかもな」
そうよしさんが言った。
僕は空を見上げたがそんな気配は全く感じない程空に雲はなかった。
ただ行き交う人の息だけが白く空に消えていく。
僕はふと淋しい気持ちになった。
なんだか行き交う人達から疎外されたようなそんな孤独が僕を包む。
「どうした?」
そんな様子に気付いたのかよしさんが話し掛けてきた。
「なんでもないんです」
「そうか」
よしさんは、公園まで足を進める。
帰り道のサラリーマンが立ち寄りそうな居酒屋がひしめく繁華街を通り過ぎると人もまばらになり静けさが増した。
それでも公園に近付くて朝とは違う賑わいを見せていた。
ボランティアと思われる人達がテントを張ったり炊き出しの用意を始めていた。
その中にホームレスの姿もあった。
よしさんは、焚き火をしているとこに身を寄せた。

「よぉ、よしさん」
源さんだ。
源さんの他にもよしさんが声を掛けた人が焚き火の周りに集まっていた。
「今年は酒はありそうかい?」
「甘酒くらいだな。だからこれ」
源さんは、一升瓶を手にしていた。
「今日は、奮発したよ」
源さんが得意げにいうと他の人達もお酒を取り出した。
「やっぱりこれがなくちゃはじまらないからな」
その中にいた1人が言った。

「そうだ。もうそろそろいい頃だろう」
そういいながら源さんは、焚き火を棒でつつき始めた。
中から銀紙に包まれたものが出てきた。
銀紙を剥がすとサツマイモが出てきた。
源さんはホクホクのサツマイモを器用に周りにいた人数分に分けて配った。
僕の手にも渡されたが、食べる振りをして服の内ポケットに入れた。
皆サツマイモを冷ましながらホクホクした顔でサツマイモを頬張る。
次第に辺りは暗くなり人も集まりだしてきた。
この街には一体どれくらいのホームレスがいるのだろう?
そう思うくらい何処からきたかその数は増えていった。
まるで被災地のような状況になってきた。
よしさんの周りにいた人は、めいめいに炊き出しを貰いにいっていた。
暖かい食べ物に人気が集まっている。
それぞれが食べ物を持ち寄るとそこにダンボールをひき並べた。
そして合掌をする。

そして宴会が始まった。
暖かな食事とそれぞれが持ち寄ったお酒。
「この寒い中皆頑張った。これからも頑張っていこう。乾杯」
この中では一番年配の源さんが乾杯の合図をした。
皆、並々と注がれたお酒をグビグビ飲んでいる。
そして暖かな食事をつまみに酒がすすむ。
何処からきたか新宿御苑にいたホームレスの黒猫がきて僕の足の上に乗った。

「おー、おまえもきたか」
そういってよしさんは、猫の頭を撫でた。
猫は、ミャーと小さな声で鳴くと僕の胡座をかいた足の上で寝る体制をとりはじめた。
手持ち無沙汰な僕は、その猫の頭や身体を優しく撫でた。
そうすると猫は寝息を立て眠り始めた。
そんな猫の様子には構わず、よしさん達はおおいに盛り上がってる。
お酒が回ってきたのだろう。
赤い頬をしたよしさんは、陽気に笑っている。

皆も陽気に笑ってる。
酔いがすすみ仲間の1人が語り出した。
20代前半ばの仲間のうちじゃ割りと若い気の弱そうな男だった。
「僕は、食品関係の営業をしていたんです」
その男は、他の人と目を合わそうとしない。
「今思えば僕に営業は向いてなかったんです」
そういったまま男俯いた。
周りの男達は、そうか、そうかと頷いている。
男はそれを合図にゆっくり語り始めた

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