性的差異 存在論的差異(Geschrecht I) 1

2024年度・夏学期(7/24)

Jacques Derrida, Différence Sexuel, Différence Ontologique (Geschlecht I) , Psyché—Inventions de l'autre, Galilée, 1987

 あとの「ハイデッガーの手(ゲシュレヒトII)」という試論と同様に、この論文は、来たるべき読解をかろうじて準備的な仕方でデッサンするにとどまっている。私はこの来たるべき読解によって、Geschlecht をハイデッガーの思想の道の中に、また彼のエクリチュールの道の中に位置づけたい。その際、Geschlecht という語の際立った印象や標記は決してどうでもよいことではないだろう。Geschlecht というこの語を私はここでは彼の言語のままに残しておくことにしておくが、それはこの読解そのものの中で重要になるはずのいくつかの理由によっている。もちろんここで問題になるのは、「ゲシュレヒト」(性、種、家系、産出、世代、系、類、族などを指す)であって、ゲシュレヒトなるものではない。ハイデッガーのはかなり後年になってから、Geschlecht という語の標記のなかに一撃もしくは打撃の刻印を再記することになるが、あまり安直に語(「Geschlecht」)の標記を超えて事象それ自体(ゲシュレヒトそれ自体)の方へ向かってはならない。ハイデッガーはこの再記をわたしたちがここで語ることはできないあるテクスト、そうしたあるテクストで行っている。そのテクストとは、『言葉への途上』に収められた「詩における言葉——ゲオルク・トラークルの詩の論究」である。