暴力と形而上学 11

2023年度・冬学期(3/20)

Jacques Derrida, Violence et métaphysique, essai sur la pensée d'Emmanuel Lévinas : L'écriture et la différence, Editions du Seuil, 1967

『全体性と無限』は非対称性をきわめて徹底しており、そのためこの書物が女性によって書かれたなどということは不可能である。本質からして不可能であるようにわたしたちには思える。この書物における哲学的主体は男性なのだ。(たとえば、この書物のエコノミーにおいてたいへん重要な位置を占めている「エロスの現象学」を参照。)一冊の書物がこのように女性によって書かれることがありえなかったという原理的な不可能性は、形而上学のエクリチュールの歴史においても類例がないのではないだろうか。しかもレヴィナスは別の場所で、女性性が「存在論的カテゴリー」であることを認めている。この指摘を形而上学的な言語の本質的な男性性と関連づけるべきだろうか。しかしおそらく、形而上学的な欲望は女性と呼ばれるものにおいてさえ、その本質からして男性的なものなのだ。これこそおそらく、(「絶対的に他であるものとの関わり」としてのセクシャリティを捉えそこねていたのであろう)フロイトが考えていたことだ。ただし、そのときフロイトは、欲望ではなくリビドーについて考えていたのだが。